伝統工芸を手のひらに。佐賀・HIZEN5の「やきものガラスペン」で書く時間をととのえる
写真・文 久保田千晴
5つの産地が手を取り合った、新しいやきものの形
焼き物の里として知られる佐賀県。窯業に適した豊かな自然に恵まれ、地域ごとに多様な磁器の発展と焼き物文化を育んできました。その歴史や技術は日本遺産にも登録され、今も受け継がれています。
そんな佐賀の5つの産地(唐津・伊万里・武雄・嬉野・有田)が手を取り合い、新しく立ち上げたのがHIZEN5。器という枠を超え、それぞれの産地の個性を見比べられる製品を提案しています。現在は、磁器や陶器でつくられた胴軸にガラスのペン先を組み合わせた「ガラスペン」を中心に展開。伝統工芸の魅力を身近に感じられるプロダクトです。
持ち手の形状は産地や窯元によってがらりと変わり、端正な直線やふっくらとした面取り、装飾的な意匠などさまざま。その土地ごとに育まれた個性が、ガラスペンの小さな胴軸に宿ります。手のひらに収まるガラスペンだからこそ、器としては見過ごしてしまうような繊細な違いにも気づけるかも。
HIZEN5のガラスペンは、“個体差”を楽しめるのも魅力。同じ型でも表情が違い、重さや重心も一本ごとに微妙に異なります。焼成の過程で生まれる収縮やゆがみもまた、味わいのひとつ。そんな偶然のゆらぎが、使う人にとって「自分だけの一本」として愛着を深める理由にもなっています。
ペン先は共通のガラスで、インク含みがよく、細字から中字まで角度次第で表情豊かな文字を書くことができます。力を入れずともスルスルと紙の上を走っていく滑らかな書き心地で、いつもの字が、より整って見えるよう。
マットな紙ではしっとりと落ち着いた線に、和紙では繊維をなぞるように軽やかな線が生まれ、紙の種類によっても書き味の違いを楽しめます。
スマホやPCで文字を打つのが当たり前の今だからこそ、インクをつけて一文字ずつ記す時間は贅沢に感じられるもの。目の前の紙とペンにだけ集中していると、心がすっと整い、ちょっとした瞑想をしているような清々しさがありました。
器以外の形で、焼き物文化の価値を次世代に繋げるHIZEN5のガラスペン。道具に触れ、紙に向き合う時間は、日々の暮らしのリズムを静かに整えてくれます。お気に入りの一本を手に、日記や手紙の一行から、小さな“書く時間”を取り戻してみませんか。
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