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「動くホテル」で“行ける”場所より“行きたい”場所へ──藤吉正一さん 新しい介護×旅(1)

「助けあって。介護のある日常」──大型トラックの運転手になった後、納棺師に憧れて葬儀の世界へ。葬儀をきっかけに出会った人たちとの関係を継続していきたいという思いから、キャンピングカーで介護旅を提供する前例がない取り組みを始めた藤吉正一さん。新しい介護×旅について伺った第1回。

撮影・井手勇貴 構成&文・殿井悠子

写真は藤吉さん。後ろの車が相棒のドイツ製・大型キャンピングカー
写真は藤吉さん。後ろの車が相棒のドイツ製・大型キャンピングカー

「介護が必要だからこそ、できる旅があるのではないか」

そう語るのは、レスパイト・ツーリズムを立ち上げた藤吉正一さん。現在は葬儀業と並行して介護旅行の業務を行っている。藤吉さんは、自身の妻をがんで亡くした経験をもつ。

「食べられるものが限られることや見た目の問題から、病気を引け目に感じて外出を避ける妻に対し、当時の自分は何もできませんでした」

さらに、葬儀の現場で多くの遺族と接するなか、「もっと一緒に過ごせばよかった」という後悔の声を幾度も耳にしてきた。人の命は儚い。だからこそ、介護が必要な人やその家族が行きたいと思ったときにすぐに実行できる、安心して旅に出られる仕組みをつくりたいと思った。

天窓がついたベッドルーム。壁に細かい収納もある
天窓がついたベッドルーム。壁に細かい収納もある

藤吉さんが旅の相棒に選んだのは、大型のキャンピングカーだ。民間救急のニーズはあるが、医療的なハードルが高い。ならば「動くホテル」とすれば自由度が高いサービスを提供できると考えた。車内にはふかふかのベッドルームや車椅子でも利用できるトイレが装備され、高級ホテルさながらの造り。「介護されているからこそ乗れる」特別な仕様は、利用者にとって引け目ではなく、誇りや喜びを感じられる存在となる。

「介護される人は、日頃周囲に迷惑をかけていると思いやすい。高級キャンピングカーを使った旅なら『自分がいるからこそできる特別な体験』を家族に提供することができる。そもそも旅には、“できない”を“できる”に変える不思議な力があります」

印象的なエピソードがある。末期がんで体調が優れず外出を控えていた埼玉の50代男性が、藤吉さんのサポートによって金沢で開催される娘の結婚式に出席できたのだ。道中、車窓から景色を眺めるうちに表情が和らぎ、途中のサービスエリアでは大盛りの蕎麦を平らげるほど食欲が戻った。階段を上れないくらい足腰が弱っていたはずが、会場に到着した頃には自分の足で歩けるまでに回復し、式に参列することができた。このことは本人にとって大きな喜びであると同時に、家族にとっても「父と一緒に大切な日を迎えられた」というかけがえのない思い出になった。

トイレの扉は90度開くことでベッドルームとの仕切りになり、車椅子でもゆったりした空間で利用できる
トイレの扉は90度開くことでベッドルームとの仕切りになり、車椅子でもゆったりした空間で利用できる

いま藤吉さんは、とある高齢のきょうだいたちが「皆が元気なうちに全員でお墓参りに行きたい」という希望を叶えるべく、6人を順番に迎えに行く旅の計画を立てている。藤吉さんのキャンピングカーは単なる移動手段ではなく、人生の節目に立ち会い、願いを叶える伴走者だ。(続く)

  • 藤吉正一 さん (ふじよし・まさかず)

    デコトラに憧れ大型トラックの運転手になったが、親戚の葬儀で出会った納棺師に憧れて葬儀の世界へ。その後、葬儀をきっかけに出会った人たちとの関係を継続していきたいという思いから、今年1月に埼玉で「レスパイト・ツーリズム」を設立。キャンピングカーで介護旅を提供する前例がない取り組みを始める。

『クロワッサン』1150号より

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