『SUMOOOO!! 流れ流れてハリウッド』著者 雨宮圭吾さんインタビュー「人生訓的な成功譚にはしたくなかった」
撮影・中島慶子 文・クロワッサン編集部
まずまずの好角家でも、東桜山(とうおうやま)という四股名には聞き覚えがないかもしれない。でも「グミのCMに出ていたお相撲さん」と言えば、ああ! となる人は多いだろう。
本書は、あのコミカルでチャーミングな大男・田代良徳さんの半生を辿ったドキュメンタリー。書き手である雨宮圭吾さんが田代さんと初めて出会ったのは20余年前、新人の相撲記者と大関・栃東(とちあずま)の付け人としてだった。
「当時、栃東は綱取りがかかっていて、稽古場も緊迫感がありました。その時に東桜山だけは『記者さんたちも大変っすよね』と気さくに声をかけてくれて。初めて雑談できたお相撲さんだったんです」
その後、志半ばにして角界を引退した東桜山改め田代さんだが、そこからは波瀾万丈。テレビ制作会社に勤めた後、下町のスーパーマーケットで働き始める。もともと家業も食料品店だったからか、意外な商才を発揮し“日本一デカいスーパーの店長”としてメディアに取り上げられるように。次第に有名企業のCM、アメリカ版『VOGUE』でのスーパーモデルとの共演、さらにはインドからもCMのオファーが来るようになった。
引退後もSNSで繋がっていて「なんか面白そうなことしてるな」と見ていた雨宮さんは、ついにインド映画にまで出たというあたりで本人にインタビューをした。
「そのオンライン記事がかなり話題になったこともあり、書籍化の企画を出しました」
周辺取材やリサーチも豊富で、特にインド関連の章は、インド映画界のガイドとしても勉強になり、かつ奇想天外さや(ゆるい)空気感がビビッドに伝わってきて、まるでコメディのよう。ルーズで先が読めない現場に困惑する田代さんのストレンジャーぶりには、不憫ながらも笑ってしまう。そんなアウェイな感じのまま元力士は〈流れ流れてハリウッド〉、真田広之さんやキアヌ・リーブスさんらと現場を共にするのだからすごい。
彼はみんながイメージするお相撲さんのタイプとは違った
「その2人のスターとの対面シーンや初渡印のくだりは僕自身も特に気に入っていて、田代さんのおどおどした雰囲気や小心さ、用心深さがよく表れていると思います。彼はみんながお相撲さんからイメージする豪放磊落なタイプではなく、現役時代からパソコンやスマホをいじるのが好きな、ちょっと内気な性格だったので」
ふだん取材するのはスーパースターで大きな成功物語を持っている選手ばかり、という雨宮さん。
「アスリートの本ってメソッドや人生訓的なものが多いけれど、この本にはなるべくそういう要素を入れたくなかった。主人公が逞しく自分の道を切り拓いていくというよりは、翻弄されて流れていく……読み物として単純に面白く、こんな話があるんだと楽しんでもらえることを念頭に入れて書きました。もっとも、田代さん自身はもう少し人生訓的なことを言いたかったかもしれないですが(笑)」
『クロワッサン』1145号より
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