“介護の休日”を作ったら母の言動が愛おしくなって──増山弥生さん「在宅介護のマイルール」(2)
撮影・村上未知 構成&文・殿井悠子
栃木県の山あいで暮らす増山弥生さんは、夫の正次さんと、認知症の母親・久子さんとの3人暮らし。久子さんは現在、衣食住の日常生活の全てに介護が必要な状態だ。認知症状は約9年かけて、ゆっくりと、でも着実に進んでいった。
「最初の頃は、見慣れない母親の姿を次々と目の当たりにする日々でつらかったです」と、弥生さん。例えばある日、正次さんが仕事から帰ってくると、弥生さんが「お母さんがおかしくなっちゃった!」と泣きじゃくっていた。そのそばで、久子さんが「弥生ちゃん、心配しないで。大丈夫だかんね」と、弥生さんにではなく、家の柱に向かって熱心に話しかけていた。「義母は不安な気持ちを抱えている様子で、気丈に振る舞いながらそんな行動を。衝撃的な光景でした」と、正次さん。それは薬を替えたことが原因で起こる一時的な幻覚症状だったようで、ほどなくおさまった。ほかにも、主婦としての自覚が強い時期がやってきて、料理を手伝おうとお皿を火にかけたり、「可愛いもの=娘の弥生ちゃん」という認識で、愛犬に向かって「弥生ちゃん」と優しく話しかけたりすることもあった。
久子さんに新しい症状が出ると、悲しみや寂しさを感じる気持ちは今でもなくならないが、弥生さんと正次さんはその都度原因を考え、対策を試みてきた。そうすると気持ちが整理できた。「このまま自宅で最期まで母を看ることができたらいいけれど、私が母の介護を全うすることが母にとっての幸せではない」と思えるようになり、弥生さんがプロの手を借りて“介護休み”を取り始めたのは、つい最近だ。
「食事は、朝食だけ用意します。母をデイサービスに送り届けて、迎えに行くのは自分のお店を閉めた後。昼食と夕食は、デイサービスの施設で食べてもらいます。入浴は週に2回、介護サービスを利用して。お店が定休日の月曜日は、ショートステイで施設に泊まってもらい、仕事も介護も休みの日を作りました」
疲れたら、正次さんに介護を任せることもある。「気持ちがいっぱいいっぱいだった頃は、母に対して憎らしく思うこともありましたが、周りに頼れるようになった今は、トンチンカンな言動も可愛いな、と思える余裕が生まれました」。(続く)
『クロワッサン』1140号より
広告