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「歌と物語の絵ー雅やかなやまと絵の世界」泉屋博古館東京【青野尚子のアート散歩】

文・青野尚子

物語や歌が描かれた優雅なやまと絵。

中国からもたらされた美術品の影響を受けながら、日本で独自に発達した「やまと絵」。繊細な描写と典雅な色彩が美しい。このやまと絵には和歌や物語が描き込まれたものも少なくない。「歌と物語の絵 ―雅やかなやまと絵の世界」展はそんな古典文学とかかわりの深い物語絵、歌絵を集めたものだ。

たとえば《柳橋柴舟図屛風(りゅうきょうしばふねずびょうぶ)》は歌枕が描かれた歌絵のひとつ。歌枕とは和歌で繰り返し詠まれた地名のこと。いにしえの人々はこの絵に描き込まれた「川、橋、山に、柴舟、網代木(あじろぎ)(杭)」を見てすぐに宇治を思い浮かべた。この屛風は実際の宇治の風景ではなく、和歌に詠まれた宇治のイメージを現したものなのだ。

《柳橋柴舟図屏風》(右隻) 江戸・17世紀 泉屋博古館蔵
《柳橋柴舟図屏風》(右隻) 江戸・17世紀 泉屋博古館蔵

物語中の場面だけでなく、作者が描かれることもある。《三十六歌仙書画帖》は歌の神様である「歌仙」を描いたもの。松花堂昭乗(しょうかどうしょうじょう)の流麗な書による、それぞれの歌人の代表歌が添えられている。ここで描かれる歌仙は歌作りに悩んだり、色目をつかったりとどこか人間くさい。「神様」らしくない姿に親近感がわいてくる。

《三十六歌仙書画帖》伊勢 松花堂昭乗 江戸・元和2年(1616) 泉屋博古館蔵
《三十六歌仙書画帖》伊勢 松花堂昭乗 江戸・元和2年(1616) 泉屋博古館蔵

このほかにも詞書と絵とが交互に現れて物語中の時間の経過を体感できる絵巻物、大画面にドラマチックな場面が描き込まれた屛風など、文学世界とさまざまに絡み合う絵画が並ぶ。ときに艶やかな、ときにくすっと笑ってしまうような絵が私たちを物語の世界に誘う。

主に桃山時代から江戸時代前期のやまと絵を展示。明治時代に流行した日本の歴史や神話を描く「歴史画」も興味深い。一部の作品は文化財用高精細スキャナーで撮影された拡大画像も見られる。登場人物のちょっとした表情の違いや四季の自然も楽しみたい。

歌と物語の絵―雅やかなやまと絵の世界
6月1日(土)~7月21日(日)
●泉屋博古館東京(せんおくはくこかん) 平成館
(東京都港区六本木1・5・1) 
TEL.050・5541・8600(ハローダイヤル)
11時~18時(金曜は〜19時)
月曜、7月16日休(7月15日は開館)
入館料一般1,000円ほか

  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1118号より

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