映画 『ジョン・レノン 失われた週末』、オノ・ヨーコと別居していた”空白の期間”を描く。
文・兵藤育子
"神話"の陰に隠れた真実が今、語られる。
本作は、ジョン・レノンの”空白の期間”とされている時期について描いたドキュメンタリー。その見どころを、作家でビートルズ研究家の島村洋子さんに語ってもらった。
「失われた週末」というのは、当時、精神的に追い詰められ、浮気を繰り返していたジョン・レノンが、オノ・ヨーコと別居していた時期を指しています。なのでこの映画も俗に言われるように、その間、ジョンが乱痴気騒ぎをして、ふたりの個人秘書だったメイ・パンがお世話をしている様子が描かれていると思っていたのですが、意外にも純粋なラブストーリーだったので驚きました。
そもそも、ジョンと恋人になるようメイに促したのはヨーコなのですが、ジョンはすぐに自分の元に戻ってくると踏んでいたのでしょう。だけど予想外に、ふたりは愛し合ってしまった。ファンの間で、メイはジョンにとっての箸休め的な存在として認識されてきましたが、それ以上の関係だったことが彼女自身によって語られています。
そしてその発言を、ジョンと最初の妻シンシアの息子であるジュリアンも、インタビューに応えることで裏付けています。メイの後押しで、ジョンはなかなか会えなかった息子と幸せな時間を過ごせたこと、シンシアとメイはその後もずっと友情を育んでいたことなどは、温かな気持ちになりました。
メイがいろんなミュージシャンに好かれていたことも大きなポイントで、ヨーコといるときはあまり会えなかったであろう、ミュージシャン仲間がジョンに会いに来ます。険悪になっていたポール・マッカートニーも。そして数々の貴重なセッションが生まれるのです。
もしあのままジョンがメイと一緒にいたら、どうなっていたのでしょう。殺されなかったかもしれないし、子育てで5年間も音楽活動を休止していなかったかもしれない……。ヨーコはたまたまそばにいた、同じアジア人のメイをあてがっただけなのかもしれません。だけど40年という短いジョンの人生のなかでも、よい彩りになったのだろうなと思います。
彼女といたおかげで、天気のいい日に海に行ったりするような、失われた週末とは言いがたい、静かで穏やかな日々を過ごすことができたのですから。映画を通してそんなジョンを見ることができて、メイにお礼を言いたい気持ちになりました。
『クロワッサン』1117号より