家事がもっと楽になる、キッチン・ダイニング・洗面所の家具の配置の方法論。
その方法論を一級建築士の資格を持つ高原美由紀さんに教わりました。
イラストレーション・市川リョウコ 文・辻さゆり
◆キッチン
食器棚のサイズを見直せば、キッチンのスペースも広がる。
「日本のシステムキッチンはシンクと食器棚とのスペースが狭くて、約85〜90cmくらい。それだと2人は入れないので、ますます家族は台所に入りにくくなり調理する人は孤立します」
そこで見直したいのが、食器棚のダウンサイズだ。家族が減ると食器も多くは必要なくなる。整理して食器棚を小さいものに替えれば、キッチンのスペースも広がる。
「生き方を見直すタイミングで食器や道具の処分もしたほうがいい。ものを減らして全体が把握できると、行動がスムーズになり、ストレスも減ります」
◆ダイニング
掃除や動きやすさを考えれば、80cm以上の通路が必要。 確保が難しければ、家具のダウンサイズも。
「ダイニングテーブルは伸縮式のものが便利ですね。普段は小さくしておけば家具と家具、家具と壁の間の通路が広がりますし、来客があれば大きく広げて使うこともできます。ダウンサイズするなら団欒しやすく、料理も取り分けしやすい丸形がお薦めです」
通路は80cm以上確保できるとよい。
「家の中を楽に回遊できれば、体を家具にぶつけることなく安全です。75㎝あれば物を持って歩けますが、掃除機の柄は1mくらいあるので、ストレスなく回転させるなら90mあれば、かなり家事はしやすくなるでしょう。将来的に車椅子を考えるのであれば、1.2mは欲しいところですね」
(配置例)
(配置例)
◆洗面所
アクション数を減らすため、洗濯機上の空間を有効に。
暮らしのストレスを減らすには、「アクション数」を減らす工夫が必要。中でもアクション数が多いのが洗濯だ。
「洗濯機の上、もしくは洗面所の上方に空間があれば、パイプを取り付けて常にハンガーをかけておくと便利です。洗濯機から取り出した洗濯物をすぐにハンガーにかけることができ、しゃがんだり持ち運ぶといったアクション数を減らすことができる。多くは洗面所の隣にある風呂場で乾燥させてもいいし、どうしてもベランダで日に当てたいなら、ハンガーごと持って行けば、そのまま物干し竿にかけられます」
過ごし方も家事動線も決まるから、定期的に見直したい家具の配置。
「家具の配置を換えると、まず体の向きと座る位置が変わります。それによって、家族間のコミュニケーションに大きく影響するんです」
そう話すのは、一級建築士の資格を持つ高原美由紀さん。心理学、脳科学、行動科学、生態学といった科学的根拠を持った「空間デザイン心理学」を体系化し、空間デザイン心理学協会の代表理事も務めている。これまで多くの家族から新築やリフォームの相談を受け、大がかりなリフォームをしなくても、家具の配置を換えるようアドバイスするだけで家族関係が良くなり、悩みが解決するという経験をしてきた。
「答えは全部家の中にあります。相談者の特性を見極め、家具の位置を変えて適切な居場所を作ってあげると喧嘩がおさまり、離婚をやめた夫婦はこの数年で5組くらいいます」
第2の人生を迎えようとする女性たちへのアドバイスは、「自分専用の椅子を1脚持つこと」だ。
「夫との会話を増やしたいと思えば、彼の視界に入る場所に椅子を置き、逆に一人になりたい時は家族に背を向ける位置に置く。これからの暮らしを考えたい時は、椅子は窓に向けて置けば、未来を明るい気持ちで考えられます。50代からは、家事や子育てから解放され、ありのままに生きられる素晴らしい時期。まず、自分がどうしたいか、どんな暮らしをしたいかを見つめ直し、部屋のどこが最も居心地がよいか改めて感じてみることが大切です」
[配置換えの基本ステップ]
1.理想の暮らしを想像する。
自分がこれからどんな暮らしをしたいか、改めて考え想像してみる。
2.家の中を歩きまわって、居心地のよい場所、悪い場所にをつける。
実際に家の中を歩いてみて、居心地のよさを「見える化」してみる。
3.居心地のよい理由、悪い理由を考える。
○×の理由を明確にし、○を増やして×を減らす方法を考える。
Before
↓
After
『クロワッサン』1112号より