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西島秀俊×内野聖陽『きのう何食べた?』2は、幸せのおすそ分けドラマ。まだこの世界に浸らせて

先週、最終回を迎えた西島秀俊と内野聖陽がダブル主演で中年カップルを演じる大人気ドラマ『きのう何食べた?』のseason2 (テレビ東京/金曜深夜0:12〜)。よしながふみの同名漫画を原作に中年同性カップルのシロさんとケンジの織りなすドラマの魅力を、ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、人柄絵師・本間ちゑさんが考察するミニ連載、後編です。

文・ぬえ イラスト・本間ちゑ 

後半6話を1話ずつ振り返ります

西島秀俊×内野聖陽『きのう何食べた?』2は、幸せのおすそ分けドラマ。まだこの世界に浸らせて

大人気ドラマ『きのう何食べた?』season2全12話、12月22日に最終回を迎えた。最後まで丁寧なつくりでこの物語としての筋を通した、キャストと制作陣に拍手を送りたい。
余韻を味わいながら後半それぞれの物語を振り返ってみよう。前半(記事はこちら)よりもボリュームが増してしまったが、おつきあいいただきたい。

6話。
売ってるおせち料理というのは画一的な味になりがちで、一般人が大晦日前に炊いた黒豆と変わらないというのはとても凄いこと、ちゃんと料亭の厨房で数量限定で作られたものの証ですよ……と誰か小日向さん(山本耕史)を慰めてあげてほしいと思いつつ、爆笑してしまったお年賀パーティーシーン。「こんなの普通じゃ食べらんな~い」と言うケンジ(内野聖陽)と「鮑もこんな大きい」と相槌を打つシロさん(西島秀俊)。考えてみればこの演者メンツで、こんなにも気を遣いまくりコメディ会話劇というのは他ではなかなか観られない。この作品ならではだ。

それはそうと、友達と一緒に大晦日カウントダウンからの初詣というイベントをやったことがないというシロさんに、season1の12話(原作漫画では7巻50話)高校時代の彼を「いろいろ他にやりたいこともあるだろうによくもまあこんなに勉強するもんだって」「思いつめた顔をしとった」という、シロさん父(田山涼成)の述懐を思い出した。誰にもカミングアウトできなかった少年がどのように自身と向き合っていたか、想像するしかない。しかし、その「思いつめたような顔」と、友達皆でワイワイ楽しむ初詣は未経験ということを併せて考えると切なくなるのだ。

40代後半でケンジだけでなく、小日向さん、ジルベール(磯村勇斗)という友人に恵まれたシロさんに、心からよかったねと言いたい。

この回ではシロさんがマンションオーナー池辺さん(諏訪太朗)に同居人のケンジは恋人だと明かした。言っちゃった……と固まる彼とは裏腹に、池辺さんはごく普通に明るく、やっぱりそうですかと。
同性愛者に対して池辺さんのように接する人は、50代の私の若い頃よりも増えている気がする。なんら特別なことではないと受け止める人々だ。社会は変わりつつある。子どもが、少年時代のシロさんのような思いを抱えずに済む世がよい。

7話。
シロさんの老眼から始まって、ダイレクトに肉体の老いと、その先に必ずあるものを描いた。50歳前後から同世代の知人友人の訃報にたじろぐことが増えてくる。泉下への旅立ちは避けられないこととは知りながら、そして遺族が落ち着いていても、弔問後はやはり気持ちが沈むものだ。そんなときに帰宅後あたたかい料理が用意されていたら、どんなに元気づけられることだろう。

ケンジ特製、海老の天ぷらの乗った鍋焼きうどん。天ぷらの衣の油が溶け出して甘くコクが増したおつゆと、喉ごしのよいうどんはシロさんの心を思いやってのこと。
そして、ふたりの誕生日を祝うシロさんの料理は彩り良いばらちらし寿司と、鶏天・アボカド天。揚げ物好きのケンジのために、しかし鶏もも肉の唐揚げでなく胸肉の天ぷらというところに、少しでもヘルシーなものをというシロさんらしい配慮が見られる。

それはそうと誕生日を祝うか否か。このふたりでも、しょうもない喧嘩をするんだなと、なんとなく安心した。

スーパーアキヨシ店員さん(唯野未歩子)の「お似合いですよ」。シロさんの眼鏡に対してか、それともシロさんとケンジ、パートナーとしての姿への言葉か。そのどちらの意味もあるのだろう。

【予告】ドラマ24「きのう何食べた? season2」 第7話

二組の諍う夫婦とシロさん両親の選択

8話。
美容室店長・ヒロちゃん(マキタスポーツ)の浮気癖についに鉄槌が下された。season1から、いつかくる、いつかくるぞとタブチくん(坂東龍汰)と共にわくわくしていたのだ。すまんな、ヒロちゃん。
しかし実際に映像化されてみると、かなりシビアであった。玲子さん(奥貫薫)のものだけでなく、子ども達の生活道具まで一切合切持ち出されガランとした部屋。ぽつんと残されたベトナム夫婦旅のための旅費貯金箱が哀しい。玲子さんだけでなく、息子娘もヒロちゃんと連絡を取ってくれない。肩を落とす姿に、自業自得だザマミロと心の底から大笑いできないのは、マキタスポーツの芝居ゆえか。時に憎まれ口を叩くがユーモラスで不思議な可愛げがあり、嫌いになりきれない。
「嫌いじゃないけど、やっぱり許せない」「間違いを許せるようになるために別れるの」という、ドラマオリジナルの玲子さんの台詞も納得である。

玲子さんとは逆に「誰にでも間違いはあります」と言って別れなかった、シロさんの依頼人(村岡希美)の選択。夜泣きの酷かった息子を一晩中あやし、自分を寝かせてくれた夫の優しい一面を忘れていないのだという。知人友人から、妊娠中や子どもの乳幼児期、夫の手助けが得られなかった、あれは一生忘れないと聞いたことを思い出す。その逆のパターンも、世の中にはある筈だ。

ところで。依頼人の決断は潔いが、この世に存在しないカマラさんにコロッと騙された依頼人夫(桜井聖)。こんなにチョロくて銀行の融資担当者……その銀行は大丈夫なのか。夫婦関係の行方もさることながら、そちらが気になる(ちなみに国際ロマンス詐欺はドラマオリジナル設定だ)。

二組の諍う夫婦の間に、シロさん両親の選択も描かれた。長年住み慣れた家を売って、その売却益で老人ホームに入るつもりだと。我が子にできるだけ負担をかけないため、老後も安心して暮らすためならば、シロさんの言うように良い選択だろう。超高齢化社会、老々介護が問題になる昨今の情勢を踏まえると、子の立場から見れば理想の両親である。
それにしても、シロさん母を演じる梶芽衣子はさすがだ。あなたの実家を売るのだ、ごめんなさいと頭をさげつつも、息子がぜんぜん惜しんでくれないとなると、それはそれでちょっと腹が立つという。常に懸命に生きている真面目な人が醸し出す可笑しみを、この人がこんなに穏やかに演じてくれるとは。彼女の若い頃の剃刀のような鋭い美しさ、深い影のある演技を覚えている人間にとっては嬉しい驚きである。

9話。
先週うっかり同情しちゃったヒロちゃんがドラマ開始10秒で戻ってきた上、彼の影響でシロさんとケンジの穏やかな生活が乱された。結果オーライとはいえ、やっぱり許さん。

しかしタブチくんが千波ちゃん(朝倉あき)とよりを戻してホッとした。あのままでは切なすぎる。タブチくん。彼は過去(原作8巻62話・実写では劇場版)同棲中の元カノのためには何もせず、むしろ彼女のチャレンジを軽い気持ちで否定する彼氏だったのである、そして当然のように振られていた。
その彼が、千波ちゃんを応援している。ビミョーに料理が下手で自己嫌悪に陥り、美味しいものを作って彼と一緒に喜びあえたらいいのにと願う彼女に、お菓子作りならどう?と提案しているのだ。
あれから時が経ち、すっとぼけた若者も成長した。

老いがテーマのひとつであり、全体的に年齢層が高いキャスト陣の中で、先の長い未来を感じさせるタブチくんと千波ちゃんの存在は瑞々しい。ふたりの台所に、これからも芳しいバターの香りが漂うことを祈っている。

【予告】ドラマ24「きのう何食べた? season2」 第9話

このケンジを育てた女性だな……と納得

10話。
予告を見て、ついに来た!とガッツポーズをした。原作(16巻121話)を読んだ時に視界が涙でぼやけるほど、べしょべしょに泣いてしまった回。ケンジの母姉とシロさんの初顔合わせだ。とても楽しみにしており、そして劇場版でケンジ母を演じるのが鷲尾真知子だと知った時に、映像化されたらきっと素晴らしいものになるに違いないと確信した回だ。

鷲尾真知子は期待を裏切らなかった。店に着く前、娘の政江(明星真由美)智恵子(金谷真由美)と談笑しながら歩く際にふっと見せる緊張感。息子の伴侶……もう伴侶と言っていいだろう、その人と初めて会うのだ。ケンジから話は聞いているが、どんな人なんだろう。今日の目的を理解してくれるだろうか。そんな緊張だろう。あの表情があったから、帰り道、同じ場所を歩きながらの「ひとめ見たときから、ああこの人なら大丈夫って思いましたけど」という彼女の安堵に、そして「これからもケンジをよろしくお願いいたします」と頭を下げる姿に泣いてしまうのだ。

ケンジが死んだ時に、シロさんも家族と一緒に身内として見送ってほしいという願い。もし万一、我が子が自分よりも先に逝ってしまうのだとしたら。いや、誰が先であろうと、どんな形であろうと、別れは避けられない。しかし、その際にできるだけ悔いのないようにという行動は、気づいた時に踏み出せばできる。ケンジ母・峰子がケンジとシロさんに促した食事会は、愛ある人の成せるものであり、ああ、優しく思いやり深い、このケンジを育てた女性だな……と納得した。

ところで、序盤でちらっと映るシロさんのお弁当、おにぎりとタッパーの中身は鮭の柚庵漬焼きにだし巻き玉子、ひじきの煮物とアスパラの和え物。だし巻き卵以外はおそらく、前夜夕食のおかず。常夜鍋といい、特別な日の大御馳走の外食の日以外は通常通りの節約。意識してメリハリ利かせている。

11話。
冒頭から小日向さんの鎧のような筋肉で出オチを取りにくるの、ちょっとずるいと思う(まんまと笑ってしまった)。マッチョ小日向さんとミラクル航のダブルステニス試合「食ってて見てなかった……」のシロさんでオチがつくまでずっと笑っていたが、その後は泣かせにくるので更にずるい。

富永さん(矢柴俊博)佳代子さん(田中美佐子)宅での天ぷらパーティー。
ケンジの知らないところで、佳代子さんにケンジの好物などを語るシロさん。無意識に。意識しないで思い浮かぶままに相手のことを口にするって、それ完全に愛じゃないの……と、じんわり泣く。

「幸せをおすそ分けしてもらってる感じかな」
佳代子さんのこの言葉は、原作とドラマ含め、作品ファンの代弁ではなかろうか。

自分達不在の天ぷらパーティーがあったと聞いて「みんなで会いたかったのに」とすねて怒るジルベールにも、ちょっと泣いてしまったのだ。子どもっぽいが、嬉しいことや楽しいことを分かち合いたいという願いは友愛の証である。
「フィフティラブ……」「それはゼロじゃん!」ほんとうに、このふたり大好き。

【予告】ドラマ24「きのう何食べた? season2」第11話

生きている「ドラマ版ケンジ」「ドラマ版シロさん」

12話。
シロさん母が取り出してみせたハンカチはseason1、4話でシロさん父の入院時に、ケンジがお見舞いとして贈ったものだ。当時お着物にハマっていたシロさん母の好みに合わせたのか、麻の葉模様のミニタオル。原作にないエピソードであり、その細やかな気遣いと優しさに「ドラマ版ケンジ」の人柄を感じた覚えがある。

そして、この回では過去のシロさんとケンジもちょろっと出てくる。そうそう、シロさんて以前はこんな感じだったわ!ツンデレのツン成分かなり高めの人だったわ!と思い出す。11話で「人間変わるんだよ」とシロさん自身が言うが、そうね、よい変化だと思います。

「シロさんて結局お金だけなんだね」
突き放したように言うケンジに、シロさんと共にショックを受けた。いや、コツコツ貯めた金を国に持っていかれちまう、養子縁組したほうが相続税が圧倒的に安いしな!という言葉は照れ隠しにせよ、シロさんにとっては金銭的にお得な話はひとつもなくて、全て後に遺されるケンジのためじゃないの……と。しかし、ケンジにとっては養子縁組の申し出がシロさんからあったことがショックなのだろう。

「親子になりたいわけじゃないもん!」

そうなのだ。既存の制度上こういう手段があるんだよと示されたとしても、その関係に甘んじるのは本意ではない……配偶者になりたいのだと求める権利は、ケンジだけではない、誰にでもある。
遺言書を作ることに同意することでシロさんの気持を受け取るという落としどころが、このふたりにあってよかった。あくまでも、現時点では。

「一生一緒にいられるとは断言できない」「俺の人生で、俺の遺産を譲ろうなんて思う相手は、お前ぐらいだよ」原作のシロさんはこれを直接ケンジに告げることはない。が、「ドラマ版のシロさん」は伝える。
遺産を譲りたいと思える相手はケンジだけ。倹約家の彼にとって最大級の愛の告白だと思う。

「ドラマ版ケンジ」「ドラマ版シロさん」。
きのう何食べた?ドラマ版の主人公ふたり、そして他の登場人物たちは原作とは少しずつ違う。私は原作ファンであるが、それは不快な感触ではない。
彼らはseason1、スペシャルドラマ、劇場版、season2を経て、実写版の主要キャストと脚本・演出、制作陣が作り上げた空気の中で生きている人々となった。

この先、劇場版第二弾でもスペシャルドラマでも、勿論ドラマseason3でも。この愛おしい大切な日々を重ねる人々と、シロさんとケンジにまた会いたいと願っている。

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【ドラマ24】『きのう何食べた?』season2
公式ホームページ

原作:よしながふみ(講談社)
脚本:安達奈緒子
監督:中江和仁、松本佳奈、平田大輔
出演:西島秀俊、内野聖陽、山本耕史、磯村勇斗 他
チーフプロデューサー:祖父江里奈
主題歌:大橋トリオ『カラタチの夢』(OPテーマ)、Bialystocks『幸せのまわり道』(EDテーマ)

【予告】ドラマ24「きのう何食べた? season2」第12話 最終回
  • ぬえ

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    アーティスト、人柄絵師

    似顔絵を超えた「人柄」を、シンプルな線で描く「人柄絵師」としても活躍中。HP

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