伊藤まさこさんに教わる、片口、豆皿、トレイの使いこなし。
おもてなしや毎日の食卓をちょっと楽しくする設えを聞きました。
撮影・馬場わかな スタイリング・伊藤まさこ 構成&文・太田祐子
器使いは、楽しさ優先で。
片口の器にはお酒、豆皿はほぼお醤油専用、トレイは料理を運ぶだけ。買ってはみたものの、使い道がいつもワンパターンという人も多いのでは?
「器使いにあまり先入観を持たなくてもいいように思います」とは、その暮らしぶりにファンの多いスタイリストの伊藤まさこさん。
「和風の器に洋風の料理を盛ってもいいし、トレイやお盆を折敷のように使ってもすてきです。大事なのは全体を眺めてバランスを取ること。こんなふうにしたら楽しいな、うれしいなという気分で設えると、お客さまにも家族にも喜んでもらえると思います」
●片口
酒器としてのイメージが強い片口の器だが、「注ぎ口があっても、汁もの、液体にとらわれず、自由に使えばいい。片口はすごく懐の深い器だと思います」というのが伊藤さんのスタンス。
盛り付ける料理も、和・洋・中、ジャンルを問わない。この写真のようにいくつか並べて使うときには、「全体のバランスをみて少しずつ違う大きさの器を選びます。一番小さな片口は枝豆のから入れに。黒豆をちょこんと入れたりしてもかわいいですね」。
最初に手に入れるなら直径15cmくらいのものがおすすめだ。「料理を盛るにも、汁物を入れるにも使いやすい大きさだと思います」
●豆皿
伊藤さんの食器棚のなかで、群を抜いて数が多いのが豆皿だ。「かわいいから増えてもいいや、というところがありまして」。
そのほとんどは古いもの。旅先や骨董市などで出合いがあると、つい連れ帰ってしまうのだという。「鮮やかな黄色や緑釉が美しい珉平焼も、小さな豆皿だからこそ気負わず取り入れやすい。染付など柄ものもいいですね」
その使い道は、箸置きにしたり、ずらりと並べて小さなおかずを盛ったり。
「色も形もバラバラな豆皿は、並べるだけでちょっとうれしい。食卓にいつもと違う景色が生まれるのも豆皿のいいところです」
●お盆 トレイ
仕事のスタイリングでも自宅でも愛用しているのがお盆やトレイ。「疲れて帰ってきても、お盆にお酒とつまみをセットする。やっぱりちょっとうれしいんですよね」。
ビールと残り物のおひたしでもいい。お気に入りのお盆に器とグラスを組み合わせる。ただそれだけのことが自分を機嫌よくしてくれる。
「お客さまがあるときもよく使います。お茶とお菓子をのせたり、銘々盆にして取り皿とお箸をセットしたり」
食卓の上でちょっとしたプライベートな空間を作ってくれるお盆やトレイ。そこにある小さな特別感が心を浮き立たせてくれる。
【お盆・トレイで空間を仕切る。】
清潔感のあるアルミトレイで飲み物コーナー。
自宅で撮影があったり、来客が多いときには、イイホシユミコさんのアルミトレイにドリンクをセット。ルイボスティーの入ったポットはキャンドルウォーマーにかけ、ガラスの浄水ポットにはすだちの輪切りを加えて。
「それぞれのタイミングで飲めるし、お互い気を使わなくてすみます。トレイは空間を仕切ってくれるので、こんなふうにコーナー作りにも使える。アルミなのにシックな色合いなのも気に入っています」
お盆にハランを敷くだけで、楽しげな食卓に。
大ぶりのお盆に、ハランをお皿代わりにしたたくさんのキムパ。パッとテーブルが華やぐおもてなしの演出だ。
お盆は骨董市で見つけた李朝のもの。どうやら元はソバン(脚付き小卓)で、「ほかに比べてお値打ちだったのは、脚が取れてたからみたい」とおおらかに笑う伊藤さん。
取り皿に用意した黒い丸皿は20年以上前に手に入れた花岡隆さんの器。「品があって本当に使いやすい。黒い器は場を引き締めてくれるので、出番も多いですね」
銘々盆で、うれしい お茶の時間。
「友だちとのお茶の時間も、こんなふうに形も大きさもバラバラなお盆にのせて出すことが多いです」。
写真右上と右下は佃眞吾さんの多角盆と我谷盆。左下は骨董市で買ったもの。
我谷盆はもともと石川県の我谷村で作られていた彫り跡に特徴のある栗の木のお盆で、佃さん作の品のある佇まいが好きだという。
「それぞれ味のあるお盆やトレイがテーブルに並んでいるとかわいい。お揃いもいいけど、バラバラが楽しいなと思います」
銀プレートに 白い食器。きれいな空間。
「軽くてきれいで扱いやすい。独特の風合いもすごくお気に入り」という猿山修さんデザインのシルバープレート(真鍮・銀メッキ)には洋菓子と食器をセットして。
ティーカップも下に敷いたペーパー類も白一択。
「シルバーには白がよく似合うと思うから。白いカップは清潔で気持ちがいいし、レースのペーパーを合わせると可憐なかんじもして好き。ほかに銀に合わせるなら、ガラスのグラスや器もすてきだと思います」
【様々な色、形の豆皿で食卓を楽しく。】
素朴なお粥をごちそうにする豆皿の不思議。
よろけ格子文の古伊万里には黄身の醤油漬け、深みのある黄釉の珉平焼にはじゃことしその和えもの。浮かび上がる文様も美しいひし形の豆皿には梅干しをちょこんとのせて。
「なんてことのない、いつものおかずでも、豆皿にのせていくつも並べると、愛らしく、ごちそう感たっぷりに見えますよね(笑)。小さな器だからこそ様々な色、形が楽しめる。チーズやたらこなど、お酒のつまみも相性がいいので、ぜひ試してみてください」
たくさんの豆皿は小引き出しで整理。
収納に困ってしまいそうなたくさんの豆皿も、伊藤さんの手にかかれば、すっきり。愛用の小引き出し(weeksdaysで取り扱い)2つにきっちり収まっている。
どれにしようか私の箸置き。
来客の際は、豆皿を箸置きとしてセット。豆皿も箸もバラバラで、いろいろな組み合わせが目にも楽しい。
【片口は和洋中とらわれず、自由に使う。】
磁器の白に、 枝豆の緑がすっきり映えて。
注ぎ口が長くて、全体にスマートな片口。
「今日は枝豆を盛ってみました。山盛りは風情がないからそっと盛り付ける程度にして。白磁に日本酒もすごく似合うけど、こんなふうに気軽に使うことも多いですね」
平皿や小鉢に盛ることの多い料理も、片口を使うことで食卓が単調にならない。
「丸いものばかりじゃつまらないし、やっぱりバランスが大事。全体を見てメリハリがつくよう整えるようにしています」
デザートの水菓子もすっきりなじみます。
余ったシャンペンに砂糖を加えて煮立たせたシロップと桃を和え、白磁の片口に盛る。合わせた銀のスプーンがきりっと場を引き締める。
「テーブルの上が土もの(陶器)ばかりだと、どこか野暮ったくなることもあると思う。そんなときはシュッとした白磁の出番で、和のおかずだけでなく、ちょっと洋風な使い方もできます」
深めの片口から桃を取り出す、その行為も楽しい。五感が喜ぶ器なのだ。
どーんと包容力のある、瀬戸焼の片口。
骨董市などで自然と手に取ることが多いのが、古い瀬戸の器だという。
「瀬戸の土はどこか力強いかんじがしてとても好き。この片口は大ぶりで、底のほうまでどーんとした形なのがめずらしい。煮ものもいいけど、今日はサラダにしてみましょうか」
中央が少し山のようになるよう盛られたのははんぺん入りの白いポテトサラダ(和辛子が隠し味!)。
「いろいろな片口を並べて、それぞれ白いおかずを盛ったりもします。器も映えるし、食卓の景色がきれいなんです」
『クロワッサン』1101号より
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