乳酸発酵した漬け物の健康効果と賢い食べ方、献立のヒント【発酵食大図鑑】
撮影・青木和義、黒川ひろみ 文・韮澤恵理
ほどほどに漬けたものが健康にはいい!
各地に伝わる保存漬けは、旬の野菜を漬けて冬の野菜不足を解消するために発達した備蓄食です。
大きく分けると、下漬けした漬け物の乳酸菌が増え、徐々に酸っぱく変わる乳酸菌発酵の漬け物と、酢や味噌、醤油などに漬け込んだ発酵を伴わない漬け物に分けられます。発酵食としてここで紹介するのは乳酸発酵した漬け物。
野菜にはたくさんの乳酸菌がついているので、これを塩漬けにすると、浸透圧で野菜の水分が出てきて、その漬け汁で乳酸菌が繁殖します。乳酸が作られ、酸味と旨みが生まれると同時に乳酸菌がたっぷり摂れる食材になるのです。
その恵みをいただくのが乳酸発酵の漬け物の魅力。野沢菜や高菜をはじめとする青菜の発酵漬けは地域ごとにさまざまな物が伝えられてきました。
野菜の水分を出しやすいので塩漬けすることが多いのですが、醤油などを加えたものも。木曽のすんき漬けは塩を使わず、乳酸菌だけで発酵しためずらしい漬け物です。名前のよく似たすぐき漬けは京都の名産で塩を使っています。ここから植物性乳酸菌が見つかりました。
乳酸発酵が進むとどんどん酸っぱくなっていきますが、それに伴って乳酸菌が増えていくのかというとそうではありません。たとえ塩分に強い乳酸菌でも塩の多い漬け物はとっても過酷な環境です。
やがて菌は死んでしまうので、乳酸菌が活発に活動をしているうちに食べるのがベスト。菌が死んでも酸は残るので、酸味は乳酸菌の活動の目安にはなりません。
長く漬けるとそれだけ塩分が吸収されます。保存漬けは乳酸菌も摂れますが、塩分が多いことにも注意が必要です。
(注目の健康効果)
●野菜由来の乳酸菌
乳酸発酵した漬け物には、植物由来の乳酸菌がたっぷり。腸内細菌を手助けし、腸内を弱酸性に保つ。日本人の体にも合う。
●野菜の食物繊維
なかなか量が摂れない野菜は、サラダや加熱料理で摂るだけでなく、漬け物として上乗せするのも健康には効果的。
●保存性が高い常備菜
漬け物は塩と微生物で食品を長く保存するために生まれたもの。常備食として備えやすく、日々乳酸菌を摂ることもできる。
【漬け物ができるまで】
(A)野菜には元々乳酸菌がついているので、漬け物にすると樽の中で活動し、乳酸を生む。
(B)野菜の水分を出し、塩分によって雑菌の繁殖を防ぐ。
(C)漬け物を取り巻く環境にすむ乳酸菌や酵母が入り込み、発酵を進める。
(D)乳酸が作られて酸味が出てくるとともに、ビタミンB群も豊富に。
(賢い摂り方)
●添加物の少ないものを
腸にいい効果が期待できるのは、乳酸発酵させた漬け物です。味噌漬けや酢漬けはおいしいけれど、残念ながら乳酸発酵はさせていません。
また、野沢菜漬けやしば漬けを名乗っていても調味液に浸した漬け物もあります。選ぶ時には乳酸発酵させているか確認しましょう。
判断は難しいのですが、目安は添加物。発酵漬け物なら、乳酸菌や塩の働きで雑菌が繁殖しにくいため保存料を使わなくても日持ちします。発酵させていない漬け物は傷みやすいので、保存料が必要。表示を気にして見てみましょう。減塩と保存漬けは両立しないので、塩分が少ない漬け物も調味液漬けの可能性が高いでしょう。
酸味があれば乳酸菌が繁殖しているので健康効果はあります。あめ色にまでなると酸味と塩分だけが残り菌は減っているかもしれません。
[高菜菜漬け]
高菜はからし菜の変種で大きなものは50cm以上まで育つ。塩で漬けて重しをし、発酵させた漬け物は西日本から九州で広く親しまれている。刻んで売られているものや調理加工品も多い。
[すんき漬け]
長野県木曽地方の伝統的な発酵漬け物。長野の特産で、赤かぶの一種のすんき菜を湯通しして、塩も酢も使わずに自然に発酵させる。
[すぐき漬け]
京都は上賀茂地域の代表的な漬け物。かぶの一種であるすぐき菜を塩だけで漬け、乳酸発酵させる。植物性乳酸菌のラブレ菌はすぐき漬けから発見されたことでも知られている。
[しゃくし菜漬け]
大きな葉の形が杓子(しゃくし)(しゃもじ)に似ていることから名付けられたしゃくし菜を塩で漬けたもの。埼玉県の秩父地方に古くから伝わる。樽にすみつく乳酸菌がおいしさの決め手。
[野沢菜漬け]
長野県の野沢地方特産の青菜の漬け物。寒さが厳しい土地なので、比較的低塩でも漬けられたとされる。緑が鮮やかな浅漬けからあめ色の古漬けまであるが、少し乳酸発酵したものがいい。
[しば漬け]
京都の伝統漬け物としておなじみ。なすを赤じそと塩で乳酸発酵させて作る。紫葉(しば)の語源ともいわれる赤じそにはアントシアニンという赤い色素の抗酸化効果も期待できる。
(気をつけたいこと)
そもそも乳酸発酵した漬け物は季節の野菜を塩で漬け、年中楽しむための保存食。カビや雑菌の繁殖を防ぐために、塩の力を借りています。このため、本格漬け物はどうしても塩分が多いのです。適量を楽しみましょう。
(おすすめ献立)
漬け物と味噌汁、ご飯でも一食になりますが、肉や魚、豆腐などのたんぱく質を補える主菜と、野菜や海藻、大豆などが摂れる副菜を揃えるとバランスがとれます。時間がないときは、焼きのりやもずく酢を添えるだけでもいい。
Cooking idea|そのまま食べても料理に応用しても!
保存漬けは塩分が多いけれど、その塩分を料理に上手に取り入れるのもいい方法。昔から漬け物はいろいろな楽しみ方がされてきました。
高菜炒め
大きな葉が特徴の高菜の葉を塩漬けにして乳酸発酵させた高菜漬け。そのまま食べるほか、刻んで油炒めにするのも定番。細かく刻んだ高菜漬けをごま油で炒めるだけ。赤唐辛子の小口切りを加えたり、ごまを振ってもいい。野沢菜漬けなど、いろいろな青菜漬けで応用できる。
漬け物混ぜご飯
細かく刻んだ漬け物を炊きたてのご飯に混ぜると、塩気と酸味で独特のおいしさに。おにぎりにすると、冷めてもおいしい。青菜漬けはもちろん、しば漬けはご飯がほんのりとピンク色になり、見た目も華やか。
漬け物屋さんに聞きました。
東京・千駄木で伝統漬け物の店を営む柳沢博幸さんは、添加物を使わず、いい材料で作った昔ながらの漬け物を食べてほしくて、漬け物専門店を始めたそう。自ら味を確かめ、おいしいと思うものを日本全国から集めています。一度ほんとうにおいしい漬け物を食べたら、違いがわかるはず。健康にもいい日本の伝統食をつなげていこうとしています。
やなぎに桜
〒113-0022 東京都文京区千駄木2-33-6
https://www.8739.biz
『Dr.クロワッサン 強い腸をつくる、発酵食の摂り方大百科。』(2021年2月18日発行)より。
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