70歳を過ぎてから社交ダンスデビュー、料理研究家・藤野真紀子さんの筋活、脳活。
いつも元気な料理研究家、藤野真紀子さんの秘訣を聞きました。
撮影・青木和義 文・嶌 陽子
70歳過ぎてからのデビュー。歌って踊って、生きていく。
取材場所に現れた藤野真紀子さんの背筋の、何と美しく伸びていること。そう伝えると、「社交ダンスのおかげなの」と微笑んだ。
「年齢とともにどうしても背中が丸まってしまうでしょう。でも背中が丸いと踊りがきれいに見えないと言われて、普段から意識するようになったんです。ダンスに出合わなかったら、今頃すごく老いた姿勢になっていたかもしれません」
社交ダンスを始めて4年。「全く知らない世界の扉を開けるのが、こんなに楽しいとは思わなかった」と目を輝かせながら話す姿は、今年74歳になるとは思えない若々しさだ。70歳になってからの挑戦は、とある再会をきっかけに始まった。
「4年ほど前、とあるパーティーで(コーディネーターの)加藤タキさんと久しぶりにお会いしたんです。タキさんは私より4歳ほど年上なんですが、以前にも増して溌剌としていて、魅力的になっていたの。『何をやってらっしゃるの?』と聞いたらダンスだと。私もタキさんみたいな70代になりたい! と思って、体験レッスンに行ってみたんです」
それまでダンス経験はゼロ。でも、音楽にのって自然と体が動くのが楽しく、レッスンを続けることに。それから4年、いまでは週に2〜3回通うほどのめり込んでいる。
「楽しいことだけじゃありません。それまでもトレーニングジムには通っていたから、体を動かすことに多少自信はあったのに、ダンスは本当に動きが難しくて。芸事は奥が深いとしみじみ思いますね」
先輩である加藤タキさんのアドバイスに従って、1年に1回は発表会に参加。「目標に向かって自分を追い込むのがもともと好き」というだけあって、体幹を鍛えたりしながら練習に邁進している。
「こんなにがむしゃらに学ぶのは、パリの料理学校時代以来かしら。青春時代再び、という感じですね。ずっとできなかった動きがある日できるようになった時の喜びは格別です」
続けるうちに体重が5kg減、70代でも諦める必要なし。
健康のためにではなく、純粋に好きだから続けてきたダンスだが、体も確実に変わってきた。体重は5kg減り、体のラインもきれいに。鏡を見る頻度も前より増え、姿勢も意識するようになったという。
「70歳を過ぎたら、外見は諦めるしかないと思い込んでいました。下半身がたるむのは仕方ないし、もうお化粧もそんなにしなくていいかなって。代わりに内面を磨けばいいと自分に言い聞かせていたけれど、ダンスを始めてからは諦めなくていいと思えるように。体にコンプレックスがあっても、姿勢や意識の持ち方次第できれいに見せられる。それも初めて知ったことの一つです」
5年続けているシャンソンは筋活や脳活にもぴったり。
もう一つ、藤野さんが夢中になっているのが5年前から始めたシャンソン。もともと湯川れい子さんが主宰する東京女声合唱団に参加していたが、「もっと歌いたくなって」、青木FUKIさんのもとでシャンソンを習い始めた。
「音域が広がり、声の太さと深さに幅が出るようになりました。声を出すと腹筋や声帯が鍛えられて、高齢になると起こしやすい誤嚥性肺炎の防止にもなるそうですよ」
ダンスと同じく、シャンソンも練習の励みになる目標として発表会に出演。歌詞を覚えるのも脳トレになるし、感情も豊かになると話す。
「シャンソンは、人生の喜びや悲しみを歌ったもの。歌を通して心溢れる情感もどんどん豊かになっていく。これも先生が教えてくださったことです。ダンスもそうですが、私にとっては心を豊かにする“心活”にもなっているんです」
現在、95歳の母親の介護をしている藤野さん。ダンスと歌は、忙しい日々の中で、心身を元気に保つためのかけがえのない時間となっている。
「両方とも、70代からの人生のスパイス。未知の世界を学んでいくのは楽しいし、何歳から始めても遅くないと、声を大にして言いたいです」
『藤野さんの日々の元気を支えるもの』
●発表会という目標に向けて練習を重ねる社交ダンス。
年に一度は行われるダンススクールの発表会。「漫然と習っていても上達しないので、自分を追い込むために参加するようにしています」。発表会前は練習回数を増やす。
●感情表現の豊かさを知ったシャンソンの世界。
「人生の悲喜こもごもをメロディーにのせて歌う、その豊かさに開眼しました」。年に数回、発表会やライブに参加。「ステージ衣装を選んだりする楽しみもあります」
●20年近く続けている動物愛護活動。
衆議院議員時代から始めた動物愛護活動。自宅でも、これまで何匹もの保護犬を引き取ってきた。「命とのふれあいは心が温まるし、たくさんの感動をもらえます」
『クロワッサン』1094号より