【演目:浮世床】髪結床での庶民の日常を描いた、オムニバス形式の軽妙な名作。│ 柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
【演目】浮世床
あらすじ
昔の髪結床は仕事場の奥の小部屋で客が順番を待った。退屈しないよう本や碁盤・将棋盤などが備えてあり、娯楽の少ない時代ゆえ、若い衆のたまり場でもあった。将棋はくだらない洒落を言いながら指したり、王が取られたのに気がつかなかったりというヘボ同士。本を読んでいる者は実は字の読めない無筆で、声に出して読むとしどろもどろ。中には待ちくたびれて寝ている者もいる。起こすと「女といい仲になって身がもたないから眠い」とのろける。それならばとモテた話を聞いてみると…。
なぜ髪を切る店を「床屋」と呼ぶのかしら? 頭にちょんまげを乗せてた時代に、髪を結う場所(床)だった髪結床の「床」が語源なんですね。
女性は美容院へおいでになるかたが大多数のようで。男性でも行くかたはいらっしゃるものの、床屋派が多いんじゃないかしら。同じ髪を整える商売でもいろいろ違いがあるのがおもしろいですね。あまり聞きませんよね「カリスマ散髪屋」…。やはりカリスマは「美容師」のほうが似合います。
さて「浮世床」という落語、あらすじにとりとめがないなぁと感じたかたもおいででは? そう、実はこの噺、床屋で起きたちょっとしたエピソードの集合体、オムニバス形式なんです。「本」「将棋」「夢」などパート分けして長くも短くも演じられ、時間調整にも重宝します。市井の人々の日常をいきいきと描いた、大作ではないけれど名作だと思いますよ。
『クロワッサン』1088号より
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