【演目:夢の酒】ファンタジーな雰囲気を楽しめる名作落語│ 柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
【演目】夢の酒
あらすじ
大黒屋の若主人が昼寝をしているところを女房に起こされる。
「何か楽しそうな夢を見ていたのでは?」と問われ、言い渋るものの「連れ添う女房に話せないような夢ですか?」と詰め寄られたので「あくまで夢の話だよ」と、夢の中で雨宿りに軒下を借りた家の妙齢の婦人と、酒を飲んであやしげな雰囲気になり…と物語る。
女房はいくら夢の話とはいえ、聞いていられず泣き崩れ、聞きつけた大旦那が止めに入って…。騒ぎが大きくなる中で、女房が義父に奇妙なお願いをする。
夢を題材にした落語はどういうわけか名作揃い。冬の大ネタ「芝浜」や「夢金」、桂米朝師匠が屈指の人気演目に磨き上げた「天狗裁き」…落とし噺はまだまだ他にもありますし、三遊亭圓朝作の人情噺「真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)」や「牡丹燈籠」にも夢にまつわる一節があります。それだけ創作者にとって魅力的な素材なのかもしれませんね。
数多い夢のネタの中で、今回ご紹介する「夢の酒」の小洒落た、夢ならではのファンタジーな雰囲気は特筆ものといえます。名人・八代目桂文楽師匠の十八番で、現在でも金原亭伯楽、柳家さん喬、入船亭扇遊、柳家喬太郎といった当代一流の師匠方の名演を楽しめます。
実はこの噺は「夢の瀬川(橋場の雪)」という噺と古い江戸小咄を合わせてできたもので、さらに「夢の瀬川」は「松葉屋瀬川」という人情噺の一場面を膨らませて落語にしたものなのだとか。ひとつの物語から新たな噺が生まれるなんて、それこそ夢のある話ですよね。
『クロワッサン』1081号より