【演目:芋俵】憎めない間抜けな泥棒さん、芋になりきって最後には…。│ 柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
【演目】芋俵
あらすじ
泥棒ふたり組が不景気だとこぼしつつ仕事の相談。ある木綿問屋は財を貯め込んでいるが、戸締まりが厳重と言う弟分に対し、兄貴分の提案した作戦は「中に人が入った芋俵を、問屋に〝忘れ物をして芋屋に戻るから預かってくれ〟と頼んだまま戻らずにおく。俵がなくならないよう店内に運び込んで閉店するはず。夜中、俵から出て内側から戸締りを開け、仲間を引き入れる」というもの。もうひとり仲間を加えて、計画通り問屋に俵を預けたその夜中、お腹をすかせた店の小僧が…。
あらすじだけお読みいただくと、切れ者の知能犯のお話のようですが、さにあらず。
「不景気でも真面目に泥棒を続ければ、神様は見ていてくださる」とか、ふたりで懸命に考えた計画に、実は三人必要なことに決行まで気づかないとか、憎めない間抜けさにあふれています。
そしてその計画の呑気さ、仲間に加わるもうひとりの安直ぶり、問屋の奉公人の夜中の行動など、どこをとってもいかにも小市民。とても小説やドラマの題材にはならない内容で、裏を返せば落語らしさにあふれた物語です。
どの場面も爆笑ではなく、思わずクスリとしてしまう、その仕上げがサゲ(オチ)ですね。聞いた瞬間ではなく、一拍二拍のち「ああ…」と思っていただけたら、それが何ともいえない落語日和の味わいですよ。
お芋が小道具なので、秋にご紹介するのにぴったりな一席だと思います。
『クロワッサン』1078号より
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