A.正確には、忘れてしまうのではなく覚えられない。記憶の入り口(海馬)に入りづらかったり出づらくなったりする。
記憶には、外の情報を脳に「入れる」「持つ」「出す」という3つの過程がある。認知症になると、最初の「入れる(覚える)」ことが苦手になる。というのは医学的な説明。「入れる」を担当している脳の玄関口は、海馬やその周辺とされている。「記憶のしづらさ」があると、記憶として脳に保持するのがむずしかくなってくる。
ここで、「記憶しづらい」ことと「忘れる」ことを、ごっちゃにしてはいけない。例えば、さっき食べたごはんのことを思い出そうとすると思い出せるのは、「忘れる」体験。「記憶しづらい」人は、ごはんを食べたことを記憶していないので、「忘れる」体験をしていない。記憶しづらい人に「なんで忘れるの?」というのは見当違いな説教で、合理的配慮に欠ける行為だ。
「忘れる」体験をしていない人に「すぐに忘れるんだから」と言い続けるのは、言われた本人にとっては苦痛以外の何物でもない。足の悪い友だちに、「なんで走らないの?」とは言わない。その代わり、杖を持ってきたり肩をかす。それと同じだ。