離れて暮らす高齢の親、日常の不便や詐欺が心配です。
イラストレーション・鈴木衣津子 文・阿部祐子
Q1.一人で住んでいる母親。見ているといろいろと不便な様子ですが、 住み替えのタイミングや暮らしの切り替えについてやはり考えるべきでしょうか。
「子どもから見ると、家が古くて不便そうだから『住み替えたほうがいい』となりがちです。でも、ここでも本人がどこで暮らしたいのかを確認し、それをサポートすることが最優先です」
一人暮らしでも、ご近所さんや親戚、地域との地縁がある場合も。
「仲間に支えられつつであってもそこで暮らしていけるなら、極力、コミュニティを崩さないようにしてあげるのがいいと思います」
自立して暮らすのに必要なことは何か。例えば、掃除が難しくなっているのであれば掃除のサービスを、買い物や自炊が負担になっているのであれば、食材や弁当の宅配を手配してあげる方法もある。
「こうしたサービスを『もったいない』と思う親世代は多いものの、一度使って『こんなにラクになる』と気に入れば、自分でリピートするなど、取り入れてくれるはずです」
厚生労働省も、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられるよう、地域の包括的支援やサービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進している。
「万一、親に介護が必要になったときに備えて、親の住まいの市区町村の『地域包括支援センター』にも足を運んでおきましょう。どんなメニューがあり、その中でどれが親に役立ちそうかを確認する、スタッフの方と軽く話をして、顔見知りになっておくなどしてもいいですね」
\まずは「地域包括支援センター」に行ってみよう。/
【地域包括支援センター】
各市区町村の地域包括支援センターでは保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員といった専門スタッフを配置し、制度横断的な連携ネットワークを構築。介護予防支援および包括的支援事業を実施する。
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● 一人暮らしが不安
● 家事が負担
● 集団生活でも苦にならない
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老人ホームや介護施設
[元気なうちに]サービス付き高齢者向け住宅、健康型有料老人ホームなど、食事などのサービスがついた施設も多様。要介護になると退去しなければならないものもある。
[要介護になったら]介護が必要になった高齢者の生活施設には、公的施設では特別養護老人ホーム、介護老人保健施設など、民間では介護付き有料老人ホームがある。
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● 近くの友人、知人と離れたくない
● 家で暮らしたい、環境は変えたくない
● 集団生活は好まない など
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介護保険を利用、自宅で暮らす
市区町村の窓口で要介護認定を申請。認定調査を経て要介護度が決まってから、「ケアプラン」に基づいてサービスの利用が始まる。在宅系サービスでは訪問介護、訪問看護、ショートステイ、デイサービスなどがある。
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Q2.実家に帰ったら、親が必要に迫られて買ったとは思えないような高価なものがたくさん。 高齢者詐欺を防ぐための対策は何かあるのでしょうか。
「高齢者詐欺の犯人は、心理操作に長けています。例えば『振り込め詐欺』では巧妙なストーリーを大声、早口でまくしたててショックを与え、恐怖と焦りで『今すぐ振り込まなければ』という気持ちに追い込みます」
国民生活センターなどからも、最近の詐欺の手口の情報は公開されているが、被害に遭う人は絶えない。
「電話の前に注意事項を書いて貼っているのに、全く同じ手口に騙される人もいるのです」
高齢者の消費者被害も増え続けている。例えば、「シロアリ駆除サービス」の強引な勧誘、「自宅売却」のトラブルなど、無数にある。
「頭が真っ白になったとき、流れを止めるのは『ちょっと保留にさせてください』という言葉です。一瞬の間ができるので、電話ならその隙に切ってしまいましょう」
悪質商品かもと思った場合には、消費者ホットライン『188(いやや!)』に相談を。また身に覚えのない商品への支払い義務はない。
特に2021年6月に法改正があり、送り付けられてきた商品は即処分することが可能になった。代引きで送られてきたものは「受け取り拒否」「受け取り保留」で対応しよう。
「大切なのは、親が被害に遭っても決して責めないこと。責めると次からは被害を隠し、さらに被害に遭う可能性が高くなってしまうのです」
Q3. これから親が幸せな老後を過ごすために、 知っておくべき知識や制度があったら教えてください。
今まで見てきたように、必要なのは、まず親のニーズを知り、自分から情報を取りに行くことだ。
「親の家がある地域を歩いてその暮らしを想像し、『地域包括支援センター』も覗いてみる。身近、しかも無料で、役立つ情報が得られます」
またお金を守るという点では、高齢になると増えがちな、医療機関との付き合い方にも注意が必要になる。
例えば治療上入院の必要性がある場合、病院側は差額ベッド代を請求できない。にもかかわらず請求されているケースもある。
「質問し、納得できる答えが得られるまでサインしない。これは相手が医療機関でも例外ではありません」
わからないことは聞く、という姿勢は、延命治療の意思確認を行う際にも必要になる。
「延命治療は、『拒否する』『希望する』の二者択一でなく、こうなったらこうする、という具体的な指示が必要。家族には、理解して判断する姿勢が求められます」
今から一つひとつに詳しくなる必要はない。心がけておくべきは、こうした薄くても幅広い知識だ。
「『この場合はこうすればいい』という指針を持っていれば、問題に直面したとき、適切な対応ができます」
力が入りすぎないよう、気持ちに余裕を持って知識を得ながら、「親ファースト」を忘れずに親の老後をサポートしていきたい。
『クロワッサン』1062号より