伝統文化の世界で活躍中の貴公子、箏アーティスト・LEOさん。「日本人だという意識にピタリとはまりました」。
撮影・青木和義 構成と文・新森実夏
箏(こと)のイメージを新たにする表現力あふれるパフォーマンスを次々と発表し、邦楽界のプリンスとして注目を集める。箏に初めて触れたのは、インターナショナルスクールに通う9歳の時。
「父が米国人なんですが、幼いころに両親が離婚。英語の習得が同級生より少し遅れて、自分の気持ちを思うように伝えられなくて。子どもながらにアイデンティティを模索していたんですよね。そんな時に授業で出合った伝統楽器の箏が、心のどこかにあった“自分は日本人だ”という意識にピタリとはまり、夢中になりました」
箏は、奈良時代に中国から伝来後、雅楽の楽器として日本独自に発展。
「箏曲は江戸時代初期に基本ができ、20世紀以降は西洋音楽の影響を受けて、クラシックなどの要素を入れた現代箏曲が生まれました」と解説もお手のもの。
時代に合った奏法を提唱する生田流沢井箏曲院で学び、早くから頭角を現して19歳でデビュー。現在までに5枚のCDをリリースし、プロとして活躍する一方、東京藝術大学の学生でもある。一人暮らしの料理を楽しみ、猫を愛する平凡な20代だという。
「一人で居酒屋にも行きますよ(笑)」とはにかむが、箏の話では「食べていくのが難しい業界で、プロでいられるのはありがたいです。僕の活動で箏に興味を持つ人や習いたい人が増えるなど、貢献できれば」と覚悟をのぞかせる。
オーケストラとの共演や現代音楽のカバーなど、活動は枠にとらわれない。
「情熱的な表現ができる現代箏曲も、桜が散るのをはかなく愛しむ感性に繋がる内省的な古典も、僕は両方とも好きだし、使い分けできるのが箏曲の魅力。今後は海外公演にも挑戦したい」
舞台では袴姿も披露するが、この日はお気に入りの「リック・オウエンス」の服でさらりとポージング。現代っ子でありながら古典的。国際的でありながら日本的。LEOさんが奏でる箏は、未知の魅力にあふれている。
『クロワッサン』1054号より