「得するつもりが損している」消費パターンを、行動経済学で診断!
撮影・豊田 都 イラストレーション・サンダースタジオ 文・黒澤 彩
あなたの悪癖を診断! 処方箋付きで解説します。
【得するつもりが損している】タイプ
□ いくつものサブスクや会員制サービスに入りっぱなし。
●現状維持バイアス
さまざまなジャンルに広がりを見せている、月額○○円といった定額サービス。頻繁に使うならお得だが、利用していないのに、ただ解約できずにいるのなら本末転倒。
「一度入るとやめられないのには、現状維持バイアスが関係します。人には、現状のままでいたいとする心理的傾向があります。変化を受け入れることによる損失を避けようとするのです」
また、入手の仕方や使途によって、お金そのものを色分けする、メンタルアカウンティングも関わっている。ギャンブルで手に入れたお金はパーッと使ってしまうのが、そのわかりやすい例だ。
「財布から直接支払わず、口座から自動的に引き落とされるお金については、支払っている実感が持てない。それも要因です」
現状を変えたくない+払っている実感がない。2つの行動心理が作用して、静かに損をし続けている可能性が。今すぐ見直しを。
□ ポイント大好き。クレジットカードは3枚以上持っている。
●保有効果
「なぜか、人は1000円の割引よりも1000円分のポイントのほうを価値が高いと感じます。それは保有効果といって、自分がすでに持っているものの価値を極端に高いと認識し、それを手放すことが損失だと感じる法則です。そのさらに奥には損失回避の心理があると考えられます」
どうして割引よりもポイントの価値を高く感じるのかといえば、ポイントは“自分のもの”になるから。でも実際には、割引とポイントの金額が同じなら等価なのは当然のこと。であれば、売り手が割引よりポイントを多用するのにも理由があるはずだ。
「割引は、そのときかぎりで買い手との関係が途切れてしまいますが、ポイント付与にすれば関係が続くことに。ポイントは売る側にとってメリットが大きいのです」
それを知っていれば、ポイントのために買い物をするといった悪いクセもなくしていけそうだ。
【処方箋】明細などで「見える化」
ペーパーレスのデジタル明細が主流の今、紙の明細を発行するには手数料がかかることも。それでも、支払っている実感を得て金額を確かめるためには、紙の明細をチェックするのが効果的。まずは現実を直視しよう。
そんなに無駄遣いしていないのに、お金が貯まらない。そう思っているのはあなただけではありません。
「無意識に繰り返している“クセ”に気づくことが、お金との付き合い方をあらためる第一歩です」
と話すのは、行動経済学に詳しい橋本之克さん。ビジネスや暮らしに役立つ実用的な学問として注目されている行動経済学とは、どんなもの?
「簡単にいえば、心理学と経済学を合わせた学問です。お金に関して、人は必ずしも合理的に行動するわけではありません。あまり深く考えずに衝動買いしたり、不要なものにも惰性でお金を払い続けたりしますよね? そうした人間の“不合理さ”を解き明かしてくれるのが、行動経済学です」
ひとつ例を挙げてみよう。お腹が空いているときにスーパーに行って、予定外にたくさん買い込んでしまった経験はないだろうか。この行動には、現在の状態が将来もずっと続くかのように思ってしまう「投影バイアス」の法則が当てはまる。
ほかに、買ってきただけの既製品よりも、ひと手間かけて完成させた品のほうに愛着を感じやすい「IKEA効果」なんていうものも。時代とともにアップデートされている、生きた学問でもある。
行動経済学を知ると、お金にまつわる悪いクセは、たしかに無意識の深層心理からきていると納得。
「さまざまな法則を意識できるようになると、トラップに引っかかって損することを防げ、ひいては得することが増えます」と橋本さん。自分の不合理さを認めることで、ストレスが減って生きやすくもなるという。
「ダメな自分を認められれば、悪いクセが出そうになったときに、『あ、これは!』と気づいて踏みとどまれることもあるでしょう。反対に、不合理さを認められず『悪い消費じゃない』と自分に言い聞かせるのは、とても苦しく損をし続けることにもなります」
さらには身近な人への理解も深まる。夫の不可解な買い物に潜む心理だって、はたと理解できるかもしれない。
「お金は、稼ぐのと同じくらい使い方も大切なものです。それによって家族との関係や人生のクオリティまで変わってきます。お金の使い方をできるだけ間違えないための、“転ばぬ先の杖”として行動経済学を知っておけば、きっといいことがありますよ」
行動経済学を知ることのメリット とは
・間違った判断や罠にはまることを防げる
・損することが減り、得することが増える
・モヤモヤから解放されて生きやすくなる
・身近な人の価値観を理解できるようになる
『クロワッサン』1048号より