できるところはセルフリノベーション。コストを抑えて理想の城を手に入れる。
撮影・黒川ひろみ イラストレーション・朝野ペコ
築55年の54平方メートルマンションをスケルトン状態で購入。
Nさんのリノベーション初体験は約10年前。中古マンションを購入し、塗装など一部分を自ら手がけた。しかし購入時すでに築38年だったこともあって、建物の老朽化が気になり、また環境の変化も求め、売却して新たに購入することを考え、住まい探しをスタート。
「1年ほどかけて20軒以上見て回って決めたのが、23区内の築55年のマンション。結局、前の家より古いという(笑)。立地が理想的で、昭和的な佇まいとコミュニティが良さそうなところも気に入りました」
売り主である不動産会社による解体でほぼスケルトン(構造躯体のみ)状態になっていて、解体費用が節約できることも決め手になった。
〝住まい〟へと作り上げるべく、いざ、リノベーション開始。
そのまま住める家を購入したわけではないため、間取りや仕様を決めて一から作る必要がある。設計士とのプランニングのすり合わせは何往復にも及んだ。
「もともとのプランに、私の妄想レベルの修正を入れて戻し、そこからさらに練って……の繰り返しでした」
設計を詰める作業と並行し、ショールームなどを巡って床材や建具、キッチンなど水回りの設備探しを始める。
見積もり額を下げるため、禁断のセルフ解体に挑戦。
設計がほぼ決まり、見積もりを作成してもらうと、予算オーバー。減額するには設備のグレードを下げるしかないと言われ、それを避けるためにと、自分でやれることはやろうと決意。
「キッチンや大型本棚などの設置は工務店に頼み、書斎の小さな棚などは自分で作ることにしました。また前の家でも経験済みだったので、ペイントも自分で」
最も大掛かりだったのが、「一部に残っていた木材やモルタルの撤去。業者に頼むと数十万円かかるというので、不動産会社に反対されながらも、管理組合に申請を出して自分でやりました」
ついに着工、一部セルフ施工も行い、そして完成へ……。
最終見積もりが出て、購入から半年後、いよいよ工事開始。
「水回りの防水、配管、床や壁の基礎工事が終わって、だんだんと部屋らしくなってくると、自宅という実感も湧いてきました。最後の1カ月は、ペイントや棚の取り付けなどで、職人さんたちの邪魔にならないように、時間さえあれば作業に入っていました」
2020年8月に物件を購入してからおよそ9カ月、妥協しないNさんの新居が完成した。
「古びた味わいがほどよく残る、理想の家になりました。リノベーション、楽しくてやめられない。終わったばかりだけど、また部屋作りがしたいです(笑)」
洗面と扉なしでつながっているヨーロッパのホテルのようなバスルーム。タオル掛けなどを今後DIY予定。
LDKに隣接した書斎は、こだわりのひとつ。壁塗りも、デスクまわりの書棚の設置も自分で行った。
【Nさんのリノベ実演】
〈 ドア 〉
(1)「塗装は大好き」なNさん。無垢材の扉にオイル塗装を施すことに。
(2)刷毛を使い、大胆かつ丁寧に塗っていく。建具は「toolbox」などで購入したものが多い。
〈 棚 〉
(1)あらかじめ高さを測っておき、棚受け金具を壁に取り付ける。
(2)棚板をのせて棚受け金具の穴の印をつけ、いったん外してビス穴を開けてからビスで留める。
(3)仕事部屋のデスク側に設置された棚。
〈 壁 〉
(1)「ポーターズペイント」の緑がかったグレーをチョイス。刷毛で塗っていく。
(2)安全性の高いVOC(揮発性有機化合物)フリーの塗料なので、キッチン周りにも安心して使える。
[セルフリノベ、 よかったこと・困ったこと]
主に予算削減のために行ったセルフリノベーション。全て終えてみて、率直な感想を聞いた。
よかった
●新築を買うより自分好みの家に。物件価格が安かったので、その分リノベーションに回せる資金が増えた。
●無謀と言われたセルフ解体も、やってみればできることがわかった。しかし、おすすめはしません(笑)。
●設計士と細かく詰めたおかげで、いろいろな建築理論を知ることができた。設計費はかけたほうがいい!
困った
●リノベーションを必要とするような古い物件は、設計図と現状が違うこともある。解体して発覚することも。
●自分で作り始めると、あちこちの質を上げたくなる。物件購入で出た差額を上回る出費に……。
●天井が低い、高電圧が必要な家電は使えないなど、古い物件には限界が。すべてが理想どおりにはならない。
『クロワッサン』1046号より