【歌人・木下龍也の短歌組手】人生はいま工事中。
〈読者の短歌〉
深夜二時一人で回すコンビニでこの街の寝言を聞いている
(蜜柑/女性/テーマ「コンビニ」)
〈木下さんのコメント〉
ずっと聞こえているBGM、たまにやってくるお客さんの靴の音、遠くに聞こえるサイレン、酔っ払いの罵声。「この街の寝言」という圧縮された言葉を解凍してみると、想像のなかでいろいろな音が溢れ出す。
〈読者の短歌〉
減る腹は一つだけれど三通り食べたいものがあるケルベロス
(砂崎柊/男性/テーマ「犬」)
〈木下さんのコメント〉
今日の夕食で八通りほど悩んでいる僕はヤマタノオロチ。
〈読者の短歌〉
いちめんの金の実りの麦畑背中に乗せて歩く芝犬
(ヤスギマイ/女性/テーマ「犬」)
〈木下さんのコメント〉
顔がふれるくらい接近すれば柴犬の背中にうつくしい麦畑を発見することもできる。カメラで言えば接写ですね。目の使い方がすばらしい1首。
〈読者の短歌〉
太陽がプールの底にウネウネとミミズのような光を残す
(鎌田祐輝/男性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
何度も見ていたはずなのにまだ言葉にしていなかったあの「光」を思い出させてくれてありがとうございます。「ミミズ」と「ウネウネと」は距離の近い言葉で、31音しか使えないなかに両方置くのはもったいないので推敲するのであれば、
太陽はプールの底でひっそりとミミズのような光に変わる
太陽はプールの底にひっそりとミミズのような光を散らす
などでもよいかもしれません。
〈読者の短歌〉
恋人のいない高校生たちはいる子たちより声が大きい
(飯田和馬/男性/テーマ「恋人」)
〈木下さんのコメント〉
恋が大きくなると声が小さくなるのかもしれませんね。山田くん木下さんに座布団1枚差し上げて。