無音で集中すれば苦手克服できるかも。│ しまおまほ「マイリトルラジオ」
息子の通う保育園で給食を作る調理師さんと仲が良い。朝、息子を送りに園へ行くと早くから黙々と野菜を切り、米を研ぎ、大きな鍋で調理をしている。毎日のことだから、少しでも楽しい方がいいのでは、と思い、
「ラジオをつけてみたら?」
と聞いてみた。すると、
「料理の時は無音がいいの。音楽やラジオ聴いてると手順を間違えてしまいそうになるから」
とのこと。
わたしは逆に料理も皿洗いもラジオがないとヤル気がでない。家事のスタートはキッチンのラジオをつけることから。ラジオのスイッチがONにならないと、自分自身も起動しない。ラジオの力を借りて、なんとか家事をノリでやり過ごすタイプなのだ。ただし、原稿を書く時間は別。
文章を書く時はラジオも音楽もかけられない。かなり集中しないと文章は書けないのだ。
ということは。調理師さんは園児たちの食べる昼食、おやつにかなりの集中力と、真剣勝負で取り組んでくれているのかもしれないと思った。わたしのように「ながら」で苦手を克服とはワケが違う。
今朝も息子を送ってきた。調理師さんはいつものように給食の準備中。コトコトコトコト、お湯を沸かす音、トントンと野菜を刻む音……なんだ、「無音」じゃないじゃないか。ちゃんとココにも音が響いている。午前中の空気に気持ちの良い音楽。しかも出汁のいい匂いまで。
うーん……たまには料理に集中、してみようかなあ。
しまお・まほ●エッセイスト、漫画家。1997年『女子高生ゴリコ』でデビュー。著書に『マイ・リトル・世田谷』。
『クロワッサン』1019号より
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