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パンは水や粘土のように芸術作品の材料にもなり得る――リオネル・ポワラヌ(「ポワラヌ」社長)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、パリの老舗パン屋さんの言葉を紐解きます。

文・澁川祐子

1978年8月25日号「パリでいちばん古典的なパン屋さんPOILANE」より
1978年8月25日号「パリでいちばん古典的なパン屋さんPOILANE」より

パンは水や粘土のように芸術作品の材料にもなり得る――リオネル・ポワラヌ(「ポワラヌ」社長)

「ポワラヌ」は、1932年にパリ6区に開店した老舗のパン屋(一般に「ポワラーヌ」と表記されますが、原文ママにしています)。酸味のある大きな丸い田舎パン「パン・ド・カンパーニュ」が有名です。

記事には<現在の社長、ポワラヌ氏>とだけありますが、掲載年から考えて、発言者は2代目のリオネル・ポワラヌ氏で間違いないでしょう。ポワラヌ氏は2002年に自家用ヘリ墜落事故で妻とともに亡くなり、現在は娘が店を継いでいます。

ポワラヌ氏の死後に発刊された『拝啓 法王さま 食道楽を七つの大罪から放免ください。』(伊藤文・訳、中央公論社)は、亡くなる直前にしたためたローマ法王宛ての嘆願書がもとになっています。

その内容は、キリスト教の七つの大罪の一つである「グルマンディーズ」を別の言葉に変えてほしいというもの。「グルマンディーズ」には「大食」の意味のほか「美食」の意味もあり、この言葉だと食を楽しむことまで罪になってしまうからです。同書には、その訴えに賛同したアラン・デュカスやポール・ボキューズといった名シェフや各界の美食家たちから寄せられた書簡がまとめられています。

このエピソードからもわかるとおり、ポワラヌ氏はかなりスケールの大きい人物だったよう。

彫刻家セザールの顔をかたどってパンを焼いたり、画家ダリの注文でスペインの彼の別荘にタンスから置物までパンでできたパンの部屋をつくったり。パンという、誰もが口にするものだって芸術になる。身近なものこそ無限の可能性を秘めている、という意味がこの名言からは読み取れます。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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