くらし

時代も国も越えて、今ここに。骨董を現代の暮らしに取り入れる。

そろそろ骨董の一つも……と思うものの、実際に踏み出すとなると難しい。自在に取り入れ、慈しむ湖心亭さんの暮らしを取材しました。
  • 撮影・三東サイ 文・西端真矢
2卓の李朝膳をテレビの前に置き、夫婦二人、横に並んで座る。ニュースをチェックしながら朝食をとるのが日課。
器はその日の気分で。今日は江戸時代の染付けを中心に青と白でコーディネート。「ありふれた食事でも、器の力でおいしそうに見えます」 
食後は膳を重ねて部屋の隅に。そのままインテリアの一部となる。幾つもの時代を経た傷の跡があたたかい。
小さいほうの膳でもこれだけの皿がのる。「虎足(こそく)盤」と呼ばれる、外側に反った脚のフォルムが美しい。
ごく一般的なマンションの一室が、東洋と西洋、古代から現代、吟味された家具や器がなじみ合うことで、洗練された空間に。

部屋とは不思議なものだ。これといって欠点はないのに、どうしてか居心地の悪い部屋がある。美しい家具を並べ、色彩設計にも気を配っているのになぜなのだろうか?

「よそよそしい、冷たい空間ですよね。そこに一つ骨董を置いてみると、あたたかく血が通ってきます」

そう語るのは、ホテルや店舗のインテリアデザインを手掛ける湖心亭さん。

「その骨董も、貴重なものだからと飾っておくのではなく、日常のなかで使うのがいい。繰り返し使わなければ味わえない良さがあるから」

では、と早速、夫婦二人暮らしの都心のマンションを訪ねた。朝は、リビングに2つ、膝下ほどの高さの木製卓を並べることから始まるという。「李朝膳」と呼ばれる朝鮮時代の骨董品だ。

「軽々と肩に担げるこのような膳を、一人一つ持つのが李氏朝鮮時代の人々の暮らしだったそうです。我が家の2卓は200年ほど前に製作されたと聞いています。他の家具と調和するよう、簡素なデザインのものを選んでいます」

その李朝膳に、今では、焼き魚、漬物、納豆など、純日本式の朝食が並ぶ。盛り付ける皿は、李朝と同時代の江戸時代の伊万里や唐津焼、中国青磁など。高価なものもあるが、惜しげなく日常の器として使っている。

「食べ終わったらお皿を全部のせたまま持ち上げてキッチンのカウンターまで運び、食洗機にお皿を入れる。使ってみるとすこぶる便利な家具でした」

200年前の、しかも異国の家具が、現代の暮らしの中で新しく活かされている。そんな姿が垣間見えた。

1900年代初頭のフランスの食器棚に、器は、青系、白系、緑釉系に分類して収納。「色を混在させるとなぜか落ち着かなくて……」 
木のボウルはモロッコのアンティーク。
重厚で美しい仕事机はフランスのアンティーク。ショップカウンターとして使われていたため内側に細かく仕切りがあり、実用面でも優秀。
李朝箪笥は金具の細工がシンプルなほど時代をさかのぼる。湖心亭さんの好みにもかなうことから、リビングのもう1棹も同時代のものを。
高麗祭器の下に7世紀のコプト裂を敷いて。
フィレンツェで出合ったつがい鳥の石のオブジェ。年代は不詳。
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