穏やかな笑顔、憂いの眼差し。カメラの前で木村多江さんが表情を変えるとき、周りの空気もがらりと変わる。
「でも実は人前に出るのが苦手。お芝居でも本番より、役を妄想する時間が好きです。家でも、その役になりきって家事をするんです。例えば神経質な役なら執拗に野菜を洗うとか(笑)」
でも夫や子どもの前では決して女優の顔は見せないという。
「セリフは家族が寝てから覚えて、妄想するのも皆が留守のとき。私の最優先事項は、家族が笑っていること。家では仕事の話は一切しません」
結婚して12年。今や家庭という基盤を持つ木村さんだが、その20代は孤独と葛藤の日々だった。
「21歳の時、突然父が過労で亡くなって、生きる気力を失くしてしまったんです。娘の私が心配をかけたせいだと自分を責め、お芝居することが唯一の罪滅ぼしだと思ってひたすら仕事に打ち込んでいました。でも当時の私は自分も、自分の芝居も好きになれず、人と関わるのも避けていました」