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90歳の料理研究家、鈴木登紀子さんが教える
塩分過多にならない優しい味噌汁の作り方。

NHK『きょうの料理』でおなじみの、ばぁばこと御歳90歳の現役料理研究家、鈴木登紀子さん。和食のおいしさを損なうことなく塩分とも仲良くつき合いたい。大先輩の教えを請うてきました。

 
とても大正生まれ(90歳)には見えない、料理研究家の鈴木登紀子さん。

とても大正生まれ(90歳)には見えない、料理研究家の鈴木登紀子さん。

味噌汁、煮物、漬物……長寿食と知られる和食ですが、実は塩を利かせてある料理が多い。特に白いご飯にぴったりと寄り添う普段のおかずは、塩そのものはもちろん、醤油や味噌で味付けされたものが多く、どうしても塩分過多になりがちです。

和食のおいしさを損なうことなく、毎日の食卓で存分に楽しみながら、塩分とも仲良くつき合いたい。そんな切なる願いを叶えるべく、大先輩の教えを請うてみようと、御歳90歳の現役料理研究家、ばぁばこと鈴木登紀子さんの自宅を訪れました。

笑顔で出迎えてくれたばぁばは、40年以上にわたって出演しているNHK『きょうの料理』で見かける姿そのまま。上品でゆったりとした佇まいにおっとりした語り口。ウイットに富んだ冗談を時折交ぜながら、うふふと微笑む。その若々しさ、失礼ながらとても大正のお生まれには見えません!

はて、エイジレスなパワーの源はやはり日々の食事にあるのでしょうか。もしかしたら、独自の減塩方法があるのかもしれません。それでは、ばぁばの気の秘訣を毎日の献立づくりから見てみましょう。

手秤と目秤の感覚をつかむこと。
それが生きる力というものです

ばぁばは料理のとき、計量スプーンなどは使いません。何か目安はあるのでしょうか。

「手秤って言ってね、昔のお母さんは塩ひとつかみすると何g とか、大体このくらいだとわかっていたのね。さらに、目秤って言えば、材料を見ただけでおおよその味の見当がついてしまうことなのよ」

むむ、これは修業甲斐がありそうです。

日々の食卓の常連、中でも塩分が心配なものに味噌汁があります。

「おだしが大切なのよ。今の方はね、塩辛いお味に舌が慣れちゃっているでしょう。だから、まずはおいしいおだしをきちんととって、上品で優しい味わいに慣れていきましょうね」

加工食品や外食が続くと舌が塩気に頼りがちになるのは、多くの人が自覚していることでしょう。基本中の基本ですが、より複雑な旨味の集合体であるだしを見直すことが、おいしい減塩生活の第一歩になるのです。

「お味噌汁の定番の具材、お豆腐は、雷豆腐にしたらいいわ」

軽く水抜きした木綿豆腐をたっぷりのごま油で炒めてから椀に盛りつけ、別に作った味噌汁をふわっとよそう。ごま油のコクのお陰で味噌を少し控えてもおいしく仕上がるそう。

雷豆腐の味噌汁

雷豆腐の味噌汁は手軽にボリューム感のある一椀に仕上がる。「ごま油のコクと香りがシンプルな豆腐のよい引き立て役になるのよ」


また、きのこなら油揚げを加えてコクをプラス。同じく、脂の旨味がある豚汁もお薦め。豚汁の場合には、動物性の脂なので、最後にぱっと日本酒をふるのがコツです。

寒い冬になったら粕汁もばぁばのイチオシです。粕自体に塩気はないので、塩鮭と味噌の塩気で味を決める。豚汁と同様、大根や人参、じゃがいもと様々な根菜から出る滋味深さがあり、塩気を控えても食が進みます。

豚汁

豚汁はバラ肉を少し厚めにするのがばぁば流。「野菜は根菜をたっぷり入れてね。秋田味噌や信州味噌で楽しみましょうね」

え のき茸と油揚げの味噌汁

えのき茸と油揚げの味噌汁は、えのき茸の歯触りと油揚げのコクがマッチ。「優しいお味が身上の一椀ね。しみじみとしたおいしさにほっとしますよ」


「その代わり、お味噌汁はぐらぐら煮立たせては絶対ダメよ。ぐらっときた煮えばなを注ぐのよ」

味噌の香りが一番良い煮えばなならば、塩分控えめでもおいしく楽しめる。小さな気遣いが大切なのです。

特別なことではありません、昔から積み上げられてきた台所の知恵に戻れば、おのずから塩梅のいい毎日となります。

パステルカラーのワンピースに包まれた、ばぁばのしゃんと伸びた背筋が何よりもの証しです。

塩鮭と根菜の粕汁

塩鮭の脂ののり具合がよい、秋から冬が旬の一椀。暮れから出回る新巻き鮭でも美味。「寒い冬に身も心も温まりますよ」


ばぁばに習った、4人分のおだしの取り方

1.10㎝角の昆布を乾いた布巾で拭き、水4カップを入れた鍋に入れ、中火にかける。
昆布は10cm角のものを。

昆布は10cm角のものを。

2.昆布がゆらりと動いて、湯がくつくつし始めたら、すぐに昆布を取り出す。
昆布の動きを見逃さないように。

昆布の動きを見逃さないように。


 
3.鰹節を片手いっぱいつかんで鍋に放ち、30秒ほどで火を止める。鰹節はたっぷりの量を使う。
たっぷりの鰹節を使うことがポイント。

たっぷりの鰹節を使うことがポイント。

4.鰹節が鍋の底に沈んだら、ザルにペーパータオルをのせ、静かに濾す。
鰹節が鍋の底に沈んだときがサイン。

鰹節が鍋の底に沈んだときがサイン。


 
 

◎鈴木登紀子さん ●日本料理研究家/1924年、青森県八戸生まれ。専業主婦から46歳で料理研究家デビュー。NHK『きょうの料理』に40年以上にわたり出演。近著に『「ばぁばの料理」最終講義』(小学館)。

『クロワッサン』911号(2015年10月25日号)より

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