高橋 子どもは大人をモデリング(観察学習)して育つと言われますが、身近な大人といえば親ですよね。それで、母か父か、究極の選択をすることになる。母が強烈だと、父に共感する人が多いようです。
村山 わかります。私と父は母という災厄から身を守るためのシェルターを分け合う同志でした。中学生のときに父と腕を組んで歩いていたら、母が「いやらしい、いやらしい」って言うんです。ライバル視されているんだとわかっていたから、わざと父と仲良くしたりしたこともありましたね。
しまお ひえー、すごい作戦!
村山 そして、父親は仕事に逃げますよね。兄も早くに実家を出ていたので、私と母だけが家に残される。
しまお 父は、私を自由に育てたと思っているらしいんですけど、実際はかなり「勉強しろ」と言われました。はっきりとは口にしなくても、私は大きな期待を背負っているんだと感じていました。「相手は誰でもいいから子どもを産め」とか、デリカシーのないことを言っていたのも父です。
高橋 リベラルなつもりでも、〝食いっぱぐれる〟ことへの不安が強いんですよね、親というものは。私自身がそうでしたから。言い返したいときは、「私の気持ちを考えたことある?」という言葉が有効ですよ。これを冷静に言われると、たいていの親は黙ります。
しまお 何を言ってもだいたい負けそうで……。わが家は母と父の結束が固いから、完全に私の分が悪い。子育てをめぐって言い合いになったとき、インターネットにこう書いてあったんだよ、なんて言おうものなら、二人して、「ネットは都市伝説だ!」って(笑)。まあ、ネットの情報にがんじがらめになってしまうよりは、親のやり方も取り入れたほうがおおらかに子育てできそうな気もするから、いいんですけどね。そもそも、人と喧嘩するのって苦手です。一人っ子だったせいもあると思うのですが、お二人はどうですか?
村山 今一緒に暮らしているパートナーとは、生まれて初めて喧嘩していますよ。喧嘩してもこの人とは終わらないっていう安心感があるから。彼は幼なじみで、私の母がどんなふうに怖いかというのをよく知っている人。『放蕩記』を書いたときに、母のことは一区切りつけられたと思っていましたが、彼に「そりゃあ、あのおばちゃんには言いたくても話せへんよなぁ」と共感してもらうと、改めて救済されたような心持ちになります。
しまお うらやましいです。私は夫とも思い切りやり合うことはなくて、ただ感じ悪くする程度。親に対しては高校生になって初めて、「親と喧嘩とかしてもいいんだ」と気づいたくらい、その発想もありませんでした。