くらし

この時季ならではの噺を解説いたします。│柳家三三「きょうも落語日和」

  • イラストレーション・勝田 文

夏といえば寄席では怪談噺。冷房のなかった時代は、暑いさなかに人が大勢集まる寄席は敬遠されてお客足が落ちたそうです。そこで“怖い話をやりますよ”という話題性でお客さまを呼び、来てくださったかたに涼しい思いをしていただこうというわけです。通常、落語は15分とか30分で一席の噺に“落ち”がついて完結します。それに対して怪談噺は一日30分とか40分ずつ十日、長ければ一ヶ月くらいの続き物になっています。

昔の寄席は町内など、近所に住む人の気楽な娯楽の場でしたから、続きが気になるお客さまは毎晩おいでになる……今の“朝ドラ”みたいな按配ですね。続き物だから“落ち”がない代わりに、毎日クライマックスになると場内が真っ暗になり“幽霊”が登場します。これは修行中の若者・前座の役目。暗闇だから怖いで済みますが、明るいところでは薄汚くて笑ってしまうほどチープな衣装だったりするんです。

この前座の幽霊は、おどろおどろしい太鼓の鳴る中を舞台上からだけでなく、時として客席をさまよって皆さんを怖がらせます。ただし、そこが寄席のゆるさで、こういう緊迫した場面で往々にして失敗が起きたそうです。暗い中で衣装の裾を踏んづけて引っくり返り、幽霊が悲鳴を上げちゃったとか、火の玉を出したら幽霊のかつらに燃え移って炎上騒ぎ、果ては驚かしすぎてお客さまに殴られた……こうなると死者であるはずの幽霊が命懸けということになってしまいます。

現在は故・林家彦六師匠の芸を継承した林家正雀師匠が“怪談日和”な涼を皆さんに届けてくれますよ。

柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com

『クロワッサン』1001号より

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