いいキャベツを選ぶ、という以外には、これといって別に工夫なんてないんですよ――木田明利(煉瓦亭店長)
1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、老舗のこだわりに耳を傾けてみましょう。
文・澁川祐子
いいキャベツを選ぶ、という以外には、これといって別に工夫なんてないんですよ――木田明利(煉瓦亭店長)
とんかつ屋を取りあげながら、とんかつではなく脇役のキャベツについて論じるというニッチな記事。気になる内容はというと、評判のとんかつ屋に、タイトルどおり「とんかつ屋のキャベツはなぜうまいか」を訊いてまわるという、至極直球なつくりです。
<八百屋さんにわかってもらうまでは、毎日ケンカでしたよ>
――芝白金「すずき」
<うちでは今でも、八百屋が持ってきたら、一枚ちぎって食べてみますよ>
――世田谷玉川「かつ吉」
このように、どこのお店でもキャベツを選ぶにあたって、細心の注意を払っていることがわかります。そして明治時代のとんかつ黎明期に、初めてキャベツを添えたとされる銀座の洋食の老舗・煉瓦亭も登場。新鮮なものを使う以外に気をつけているのは、機械は使わず、包丁で丁寧に切ること。10枚ぐらい重ねてできるだけ細く切っていると、現在は会長の木田明利さんが語っています。
そしておしまいには、神田青果市場の人によるキャベツの見分けかたも。見るべきは、葉の色。青味が欠けているものは老化している証拠なので、みずみずしさが感じられるものを選びましょうと教えてくれています。
添えもののキャベツですが、どこのお店も一家言あり。こうしたこぼれ話を引き出すところに案外、雑誌ならではの魅力があるように思います。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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