次に狐・狸は人を化かします。“化ける”というのが寄席に思いがけず大勢お客さまが入ること、そしてくすぶっていた芸人が突然売れっ子になることの符牒なのです。最後の泥棒ネタ、お客さまのご贔屓と懐をこちらに“盗り込もう”という願いがあるんです。
もうひとつの縁起かつぎで演題の“字面の良さ”というのがありまして。真打昇進披露や襲名披露といったおめでたい興行では『寿限無』『松竹梅』という縁起のいいタイトル噺も好んで演じられ、盛り上がるようにと願いを込めます。『短命』という噺も披露興行のときだけ『長命』と書かせる師匠もおいでです(ふだんから『長命』の題名を使うかたもいますけどね)。こんなふうに縁起をかついで大勢のお客さまが「落語日和」を楽しんでくださるように祈っているんですよ。