高座に鳴り響く “あの音”への対処法。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
「ピリピリピリ……」高座で楽しくおしゃべりしているときに、耳慣れない音が響くことがあります。“耳慣れない”と申し上げましたのは誤りかな、もはやお馴染み、客席で鳴る携帯電話です。
「三三さんの高座の最中、携帯が鳴ること多くありませんか?」ーー 先日、知人や仲間内から立て続けに言われました。他の芸人との比較は私にはわかりませんが、そういう印象があるとすれば思い当たる原因があります。それは「携帯が鳴ったとき、無視しないで必ずリアクションをとる」ことです。なぜなら、鳴らした人以外のお客さまは「芸人が気分を害したのでは?」と心配な空気になります。
そこでとっさのアドリブ、たとえ落語の途中でも、鳴った音を物語の中で起きた出来事であるかのように扱ってうまく切り抜けることで、笑いと安心が生まれるのです。すると演者とお客席が不思議な一体感に包まれて、より盛り上がるという想定外な効果がある場合も!
前述のように考えるようになるまで紆余曲折はありました。以前は鳴ったとたんにやる気ゼロ、投げやりな高座を務めてしまいましたが、それではお客さまも自分も不幸です。
“災い転じて福となす”べく考えて、今は(1)鳴ったらすぐには反応せず、客席全体が認識するまでしゃべりながら待つ、(2)登場人物の行動の中でなるべく自然に電話にふれる。そして大事なのは(3)鳴らした人に恥ずかしい思いをしてもらう、ことも忘れずに。携帯の音で落語日和が台無しにならないよう、今はちょっとスリルある対処法を取り入れているんです。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』998号より
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