くらし

高座に湯呑茶碗を 置かない理由。│柳家三三「きょうも落語日和」

  • イラストレーション・勝田 文

世の中、花粉症のかたはずいぶん大勢おいでで、噺家もその例外ではありません。かくいう私も小学生の頃から悩まされる筋金入りの患者でした。水っぱなをたらしながら落語を……やれないことはありませんが、みっともないことこの上ありませんから薬を服用するのですが、問題解決とはいきません。今度は鼻水とともに唾液の分泌も止まるため、口の中が乾いてしゃべれません。二ツ目の頃に高座に湯呑茶碗を置いて務めたことがあるんですが、アンケートでお客さまから「湯呑は三十年早い」とご指摘。三十年我慢していたらカラカラにひからびてしまいますけどね。

高座で落語家がおしゃべりしているとき、座布団の脇に湯呑が置いてあるというのは大層よい形に見えるそうです。しかしながら、実際に置く噺家はごく少数です。理由は大別してふたつ。「置いてあると邪魔だから」「しゃべりながら飲むのが難しい」ということ。動きの大きな仕草のある落語を演じる場合、うっかり湯呑をひっくり返したらと気が散ってしまいます。そして演じながらさりげなく飲むのも案外難しいんです。地というナレーション部分や座敷で会話しているシーンは構いませんが、外を歩いたり布団で寝ている場面ではちょっと不自然です。ちなみに中に入れるのは白湯が基本。「さゆ」と読んでくださいね。「パイタン」だと“落語日和”が“中華三昧”になってしまいますから。

昭和の名人・六代目三遊亭圓生師匠は「湯を飲むのではなく湯気を吸う」とおっしゃったそうですが、映像見ると「ゴクッ」と飲んでると思うんですよねぇ。

柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com

『クロワッサン』995号より

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE