『彼女たちがやったこと』著者、唯野未歩子さんインタビュー。「あの時代を生きた、女たちの物語です」
本撮影(P.86〜89)・黒川ひろみ
撮影・黒川ひろみ
女の友情をめぐる物語である。とはいえ、そこは一筋縄ではいかない、心温まるといった言葉とは無縁の世界。親友の二人は中学生の頃からずっと一緒だ。裕福な家庭で育った美しく聡明な詩織、恵まれない環境で暮らす、すべてに平凡な紀子。紀子は詩織を崇拝し、付き従っている。二人を評して、
「パワフルでデフォルメされたキャラクターが二人いて、ぶつかり合ったり騙し合ったり。怪物が二人いるような感じにしたかった」
と、唯野未歩子さん。確かに、詩織のただならぬ美少女ぶり、紀子の愚鈍にも映る強靭さは、類を見ない個性として描かれている。
時を経て、大学生活を終えた詩織は「玉の輿」婚をし、息子たちを産む。紀子は、高校卒業後にスーパーの総菜売り場で働きながら、初めて恋愛をした男性と結婚。
「口あたりのいいものではなく、女性というものを相対的に描けたらと思って。友だちとして、娘または母の部分、男との関わり……」というとおり、二人の人生はかなりビターな要素に満ちている。恵まれているように見える詩織は、母としての役割を義母に奪われ家庭に居場所がない。紀子の結婚相手は定職に就かず、酒に呑まれては暴力を振るう典型的なDV夫だ。そんな二人はひんぱんに連絡を取り合い、互いの境遇を変えるべく、大胆かつ荒唐無稽ともいえる計画を立て実行に移す。詩織が「紀子の子どもを産んであげる」という。
「えっ? いったいどうやって?」という驚きの経緯は実際に読んでいただくとして、問題はその後の生き方だ。紀子の子どもとして娘を出産した詩織は、女二人で子どもたちを育てることを夢想する。が、思惑どおりにことは運ばず、女たちは傷つけ合う。裏切りの末、初めて二人の道は分かれ……。が、12年の歳月が流れたあと、思わぬ事件が起こり、再び交わることに。
裏切りと決別、そして再会。 そのとき“彼女たち”は!?
再会を前にして、来し方を振り返るかたちで物語は進むのだが、そこで描かれる二人の青春は、実はバブルの時代と重なっている。
「当時は、仕事を疎かにしないため結婚という選択肢を選ばない女性もいて、それ以外はみんな結婚という風潮だった。下の世代とはまた違う、不思議な時間帯だったと感じます。大変な時代ですよね、転換期というか。その時代を生きた、極端だけど象徴的な女たちがこの二人。今の20歳の子たちが詩織と紀子なら、また別の選択をするのかなと思うんですよね」
再会時の二人は更年期を迎える年代。詩織は華やかな外見から一転、ボーイッシュで活動的な女性に変貌し、紀子は生来の鈍さゆえの強靭な精神でたくましく平凡に暮らしていた。二人を12年ぶりに結びつけるのは、あの赤ん坊、今や美しく成長した詩織と紀子の娘だった。詩織が実の娘とも再会を果たす章は力強く希望に満ちている。一条の光が行く手にある、そう思いながら最後には心温かく本を閉じることができるだろう。
『クロワッサン』993号より