【神林浩子さん】50代、60代で起業し、“自分のやりたかったこと”を実現。
撮影・黒川ひろみ イラストレーション・小池ふみ 文・小沢緑子
“輪を広げていく”ことが、 起業する面白さだと思います。
「最初は起業するつもりはなかったんです。茶道のワークショップを開くのに許可がいるか、品川区のチラシで見つけた武蔵小山の創業支援センターに聞きに行ったところ、開業届が必要で。申請したら、『起業となります』と伝えられ、自分でも驚いたほど(笑)」
と語るのは5年前、52歳のとき、正座をしなくても気軽にできるテーブル茶道「有結おもてなし茶の湯」を起業した神林浩子さん。11歳で茶道を始め、結婚後の25歳で宗徧流の教授職・看板の許状を取得。子育てのために稽古を休止したが、45歳のときに父親の介護をしながら茶道を再開。そして介護と子育ても終わった51歳から52歳にかけて、「このままでいいのか」「何か好きなことで社会に貢献したい」「人生最後までできる仕事は?」と考えたとき、自分には「茶道」だと思ったという。
交流会の出会いに後押しされ、勉強したり行動する自分になれた。
52歳で起業後、最初の10カ月ほどはスーツケースに茶道具を入れて、友人の店や貸しスペースでワークショップを開いていた。この間、くだんの支援センターで勧められた起業家交流会で出会った女性に、「経営の勉強をしたほうがいい」とアドバイスされたという。
「経営なんてかけ離れた世界だと思いましたが、今後テーブル茶道を広めていくうえで必要かもしれないと勉強会に参加したら、そこで学んだ経営の原理や法則が衝撃的で。今、次の展開を考えるうえでとても役立っています」
その後、やはり交流会で知った創業補助金に締め切りギリギリで申請し、採択され、サロンをオープンする資金に。翌年は女性起業家を応援するコンテストに応募して見事に受賞。
「補助金やコンテストの書類は膨大で大変でしたが、『できない』『やらない』という言葉はあえて口にしないことに。また、起業したての頃、目標を立てたことも自分にはよかったと思います」
それが、「秋葉原にサロンを開く」「テーブル茶道を全国に広める」「’20年に、自分が育てた生徒200人と共に海外の人にお点前をする」の3つ。
「友人には、無理でしょうと笑われましたが、先に目標を立てて周りにも宣言することで言葉に責任が持てる。サロンを開く目標は叶いましたし、残りも少しずつ実現に近づいています」
起業を通して思ったことは、「最初は何も知らなかったのに、出会った人たちにずいぶん背中を押されて、勉強したり行動する自分になれました。だから私も起業する人を応援していきたい。一人でやるのではなく、輪を広げていくことが起業の面白さだと思います」。
神林浩子さんの人生年表
《24歳》
大学卒業後に大手企業に就職するも、結婚を機に退職。
《25歳》
茶道宗徧流の教授職・看板の許状を取得。その後、子育てに専念するために稽古をいったん休止。
《42歳》
品川区教育委員会の非常勤職員となり公立中学校の事務を担当。
《45歳》
父親の介護のために退職。茶道・宗徧流の稽古を再開。
《51〜52歳》
介護と3人の子どもの子育てが終わり、「今後は自分にできることで何か社会に貢献していきたい」と考える。武者小路千家流「茶の湯ワークショップ」に出合い、テーブルお点前を学ぶ。
《52歳》
2013年8月、「有結おもてなし茶の湯」の名で起業。
《53歳》
東京都の創業補助金を得て、秋葉原にテーブル茶道教室のサロン「有結」をオープン。
《56歳》
サロンと同じビルに茶道具ショップをオープン。
現在57歳、正座をしなくても、テーブルで気軽に抹茶お点前が楽しめるテーブル茶道を起業して5年目。
神林浩子(かんばやし・ひろこ)●テーブル茶道教室「有結–AYU–」代表、一般社団法人日本テーブル茶道協会を設立、代表理事。「茶道だけでなく、日本文化を気軽に体験できるアミューズメント施設やイベントを開いていきたいと思います」
『クロワッサン』990号より
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