【「手みやげをひとつ」スペシャル】また買いたい、名品手みやげ。
撮影・青木和義
各界で活躍する人々に愛用の手みやげを聞く連載「手みやげをひとつ」。過去と現在の担当ライター2人が、取材時のエピソードなどを交えつつ、これまでの連載を振り返りました。とりわけ印象に残った手みやげに、独断で賞も授与します!
室田元美さん(以下、室田) 私が取材を担当していたのは5年ほど前。手みやげを売っているお店で取材相手と待ち合わせて、その場で一緒に味見しながら話を聞く、というスタイルがメインでした。
嶌陽子さん(以下、嶌) 今はお店とは別の場所で取材相手の方と会って話を聞いています。でも、取材前に試食はしていますね。「おいしかった」などの感想を伝えると、相手も「そうでしょう!」って喜んでくれて、話が盛り上がりますから。
室田 おかげさまで、いろいろなものを味わうことができました(笑)。
嶌 印象に残っている一品は?
室田 驚いたのは、アラン・ミリアのジュースとネクター(B)。ワインみたいに草や土の香りがして。新しい世界が開けた気がしました。
嶌 それはインパクトが強そう。見た目でいうと、Aの羊かんも驚きがありますよね。私は、岐阜の「天使の贈物」(F)が、印象的でした。卵の殻を割らずに作った変わり種のプリン。実は作っている会社が愛用者の後藤繁榮さんのご実家なんです。お父様が創業した話や卵の話が、ものすごく興味深くて。ご本人も「このプリンだけで、軽く30分は話せる」と言っていました(笑)。
室田 変わり種といえば、缶詰(E)を手渡しするアイデアも面白い。普通は思いつかないですよね。
嶌 贈り方にひと工夫加える人がいるのも、面白いなと思います。
室田 Cのように袋を和紙で包むとか、パッケージにひとことメッセージを書き添えるとか(D)。何げないものが特別な品になりますね。
嶌 受け取るほうは、見た目が素敵だと気分があがりますからね。そういう意味では、LとかMみたいな動物ものは、可愛くてぐっときます。
室田 一方で、日本最古のお菓子のひとつと言われている「清浄歓喜団」(P)や、300年ほど続くお店の柚味噌(Q)など、歴史の重みに背筋が伸びるものもありますよね。
手みやげの話を通じて相手の素顔がのぞけることも。
室田 それにしても多かったのが、故郷や家の近所のものを手みやげにしている人。皆さんの、地元への思いがひしひしと伝わってきます。
嶌 羽根さぬき(I)は、川井郁子さんが子どもの頃から大好きだったお菓子だとか。
室田 チーズボール(J)も、長井鞠子さんいわく「故郷、仙台のソウルフード、笹かまぼこの進化形」。西荻窪のベーグル(K)は、五月女ケイ子さんが暮らす街のもの。故郷とは別の“地元愛”もありますね。
嶌 地元を応援するだけでなく、GやHのように、作り手の活動を応援したい思いから手みやげを選ぶ人もいて、いいなと思います。
室田 手みやげの話を入り口に、幼い頃の家族との思い出話になったりして、取材中にほろりとすることもありました。
嶌 本当にいろいろな話を聞けますよね。業界特有の手みやげの慣習を教えてもらうこともあります。落語家の三遊亭歌る多さんは、「落語界では、お詫びをする時は、大体とらやと決まっていて、寄席の楽屋にとらやの紙袋が置いてあると、『あの人、何かやらかしたな』ってわかる」と話していました(笑)。
室田 流儀や美学も人それぞれ。大勢がお腹いっぱいになるように、気軽なものをたくさん差し入れる人もいる一方、珍しいものや高級なものをほんの少し贈る人も。
嶌 世界中で活躍する会議通訳者の長井さん(J)が、「日本では『つまらないものですが』と言うのが美徳だけれど、せっかく用意したんだから、自分の素直な気持ちを伝えてもいいのでは」と話していて。なるほど、と思いました。
室田 女優の木村多江さんに取材した時、「人間って不器用。子どもだったら『遊ぼ!』ですむのに、大人になると、スイーツがないとしゃべれなくて」と話してくれて。なんだか映画の台詞を聞いているようでした。手みやげの話を通じて、その人の考えていることや、素の顔がのぞくことも多いんですよね。
嶌 最初はちょっと強面そうな人も、手みやげの話をすると笑顔になる。その瞬間が、楽しいんです。
室田 これまでの連載を振り返ってみると、本当に多彩なラインアップ。有名店や世界的ブランドのものから、地元の小さな店、地方の農産物まで。でも、誰もが「これが私の手みやげ」と自信と愛情を込めて語ってくれる。それが素晴らしいし、手みやげの醍醐味なんだと思います。
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