東京・神田の生まれで、実家は祖父と祖母が築いた金物問屋という東ふきさん。小さい頃、同居する祖母の部屋に遊びに行ってはいつも《末廣饅頭》をおやつに食べていた。
「祖父と祖母は若い頃に滋賀の近江八幡から上京して商売を始めたんです。『たねや』というのは近江八幡が発祥で、神田から近い日本橋の三越にも昔から出店していました。祖母は故郷の懐かしい味を求めてこれと栗饅頭を買い置きしていたのですが、私はずっと『たねや』が東京発祥のお店と勘違いしていたほど、祖母の部屋には当たり前にあるお菓子でした」
末廣饅頭は沖縄の波照間産の黒糖を生地に使い、あえて厚皮に仕上げたひと口サイズのお饅頭。幼い東さんと姉、妹の三姉妹はそれを見つけてはすぐに食べてしまうため、せっかく買い置きしていてもすぐになくなってしまう。
「すると“もう空っぽになっている! 買ってらっしゃい!”とお金を渡されて三越に買いに走らされるんです(笑)。それくらい祖母にとっても、私たち姉妹にとっても慣れ親しんだ存在でしたね」
手ごろな大きさでかさばらず、個包装されているため持ち帰りやすい。末廣饅頭は手みやげにも重宝するそう。
「仕事柄、手みやげを持参する機会も多いのですが、いろんなデパートで買えるのはありがたいですね。また、老舗という安心感から上の世代の方にも差し上げやすい。もちろん、手みやげに買った時は自分用にも1箱買いますよ」
その味を教えてくれた東さんの祖母は昨年、103歳で大往生を遂げた。
「最後の納棺の際、副葬品の話になった時に、“おばあちゃんは天国でも末廣饅頭を食べたいはず”と、久しぶりに三姉妹揃って三越まで買いに行きました。子どもの頃のことやおばあちゃんのこと、いろいろ思い出しましたね」