平野啓一郎さんに聞く、『叫び』だけじゃない、ムンクの魅力。
撮影・黒澤義教 文・上條桂子 撮影協力・ノルウェー大使館
その作品の前に立った時に、自分の存在を揺さぶられるか?
平野さんは「透明な迷宮」以前にも、19世紀のパリを舞台にドラクロワら芸術家たちが生きた時代を描いた小説『葬送』を書き、その後、自らがキュレーターとなり国立西洋美術館で展覧会を開催するなど、美術と関わりが深い。どのように絵画の見方を身に付けていったのだろうか。
「最初はどんな絵がいいかもよくわかりませんし、好き嫌いという視点でもいいからとにかく大量に数を見る。そして時代背景をひもといてみると、歴史の流れと絵画の関係が見えてくる。ドラクロワのことを調べていた時に、彼はルネサンス以後の近代ヨーロッパ絵画と、印象派からモダニズムの間の、ちょうど蝶番みたいな存在だということがわかって、自分なりの絵の見方が整理されていきました。ムンクの場合は後期印象派の影響が見て取れますし、その後の表現主義に大きな影響を与えた画家だという位置づけがわかる」
歴史上の人物を点ではなく、同時代を生きたどういう画家と交流があったのか、前後にどういう影響を与えているのかという関連する出来事や背景でつなげていくと、俄然、生き生きとしてくるのがわかる。しかし、バイオグラフィを追ったり時代背景から絵を見ていくことで確かに理解は深まるが、絵画鑑賞の醍醐味は頭で考えるだけではない、と平野さんは最後に付け加えた。
「アートの面白さは、作品の前に立った時に自分の存在が揺さぶられるかどうか。その衝撃的な体験は、画集では味わえません。大きさやタッチ、空間全体を通しての体験ですから、美術館に“行く”ことがとても大事です」
ムンク展 — 共鳴する魂の叫び
2018年10月27日〜2019年1月20日
9時30分〜17時30分(金曜、11月1日・3日は〜20時)※入室は閉室の30分前まで
月曜(11月26日、12月10日・24日、1月14日は開室)、12月25日・31日、1月1日・15日休
料金・1,600円(一般当日券)ほか
東京都美術館 企画展示室 東京都台東区上野公園8-36
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)●作家。主な著作に『葬送』『決壊』など。新刊小説に『ある男』、評論・エッセイ集『考える葦』。
『クロワッサン』983号より
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