最大の危機は、すべての展示を見終わった後に待ち受けていた。そのわずか15分ほど前、わたしと本欄の担当M氏は壁にずらりと並ぶ「モラ(クナ族の刺繡作品)」に圧倒されつつ、ヒソヒソと話していたのである。「欲しいですね」「いくらくらいでしょうね?」「パナマに行けば買えるのかな」「下の売店で売ってたりして」「まさか。それはやばい……」。その、まさかだった。図録や関連本が並ぶ博物館の売店の一角にモラの現物が売られていたのである。わたしたちは色めき立った。「ぼくはとにかく一点モノに弱くて」と、器や工芸品をコレクションしている風流人のM氏の目が光る。それを言ったらわたしは「手仕事に弱い」そして「動物モチーフに弱い」。二人とも思わず財布の紐が緩みそうになったが、すんでのところで踏みとどまった。もしMさんが買っていたら、わたしも我慢できなかっただろう。まさに危機一髪であった。
クナ族の月の呼び方が好きだ。2月はイグアナ月、4月はセミ月、5月はタイマイ(亀)月、8月はツバメ月。いずれも、その時期が来るとクナ族の居住地に姿を見せる生き物だという。それらをデザインしたモラは鮮やかで、手が込んでいて、作り手の達成感が伝わってくるようだ。多くは40×50センチほどの長方形。クナ族の女性は、これをブラウスの前身頃と後ろ身頃にして装う。白いTシャツに縫い付けてもステキだろうなぁ! あぁ、もう一度、博物館の売店をのぞきに行こうか。いや、いっそパナマまで買いに行きたい!