「深夜、最寄り駅から港までのアクセスがなくひたすら歩いていると、何やってんのかな、とわびしくもなる。でも、いったん船に乗り込むと、後は身体をまかせるだけという気持ちになれるんです。やっぱりそれは快適で。そして、デッキに出ると完全な暗闇、ノイズのない世界で、まるで自分に潜っていくような感覚に陥る。もともとダイビングをしていたのですが、海に潜っていると心静かになれるのに似ている気がしますね」
そうして旅を重ねた中で、最も印象的だったのは、「宿毛(すくも)→佐伯(さいき)」という、高知と大分の78キロを3時間10分で結ぶ航路だという。
「私が乗り込んだときに、船には誰も乗っていなかったんです。その航路は、真夜中の2時半に水ノ子島という灯台のある小さな無人島を通りかかるのですが、その灯りは蛍のように消え入りそうでいてどこか力強くて。それを見に行くだけでいいのではないかと思えてくる。一番情緒のある航路です」