クワガタもGもダメ……虫嫌いが決死の潜入!│『特別展「昆虫」』│金井真紀「きょろきょろMUSEUM」
とても残念なことだが、わたしは虫が苦手だ。たとえチョウやトンボのような詩情あふれる虫でも、近づいてきたら「ギャー、あっちへ行け!」と醜い形相で叫んでしまう。家の中にゴキブリが出たら、猫に退治を命じるが、うちの猫はぼんやりしていてほとんど役に立たない。仕方なくわたしはゴキの命を奪うことになる。まことに遺憾だ。
この件については、長年自問してきた。「見た目が気持ち悪い」とか「住んでいる場所が不潔だ」という理由で他者を嫌うのは差別ではないか? 隣人に対するこのような不当な態度は許されるのか? もう少し虫に寄り添えたら、我が人生はずっと豊かになるのではないか?
そういうわけで今回、虫リハビリの一歩目を踏み出すつもりで昆虫展に出向いた。毛むくじゃらの蛾。カマキリの目球。青光りするコガネムシの背中。
わたしはひとつひとつをあまり凝視しないように気をつけてそそくさと見て回った。会場に虫好きの子どもたちがわんさかいて、みんなの「好き」パワーがわたしのどんよりした「嫌い」オーラを上回っていたのが救いだった。
さて、ゴキブリの展示室。入り口に「Gの部屋 観覧注意」とあり笑ってしまう。中には洒落者のゴキもいて「おっ」となる。大部分のゴキは森林に住み、落ち葉を食べて森を守っているという。「もしゴキブリがいなかったら、生物多様性にあふれた熱帯の森はなくなってしまう」と解説にある。うん、頭では理解できた。あいつは悪いやつじゃない。
金井真紀(かない・まき)●作家、イラストレーター。最新刊『サッカーことばランド』(ころから)が発売中。
『クロワッサン』981号より
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