【前編】猫沢エミさんの「パンがある朝の食卓」。食べたいものは身体に訊く、 海苔たまサンドか苺タルティーヌか。
撮影・三東サイ
パリに住んだからこそわかった日本の喫茶店メニューの偉大さ。
子どもの頃から朝はパン派だという猫沢さんに、甘めの卵焼きと海苔をはさんだ、和の趣あふれるサンドイッチを作ってもらった。卵を溶くときも、焼くときも、そして胡椒をふるときでさえ、とにかく真剣。おいしいものをおいしい状態で食べたいという、欲望の熱量が伝わってくる。
「そう、これは、卵を焼く前にパンの準備を終えておくのが大切で、卵が焼けたら〝即食べ〟が基本です。いろいろやってみたんですけど、このレシピが完全版。なぜかちゃんと自分でひいただしより、顆粒だしのほうがおいしく仕上がるし、海苔もこの量で充分。これ以上何もしちゃいけないんです」
長年使いこんでいる様子の卵焼き器をひっくり返し、熱々の卵をパンにのせたかと思ったら、あっという間に“猫式海苔たまサンド”が完成していた。食べてみてとすすめられてほおばると、レトロな喫茶店のメニューを思わせる、懐かしくも優しい味が広がる。幸福感をいや増すのはほのかに甘いパンの風味。使っているのは、お気に入りだという『オリミネベーカーズ』のもの。
「フランスに長く住んでいたから、毎日バゲット食べてるんでしょ、なんて思われがちですけど、いえいえ、日本には食パンという、おいしくて柔らかい素敵なものがあるじゃないですか! ちなみに、『オリミネベーカーズ』には食パンが4種類あるんですけど、これは一番お高いハイグレードなもので、本当においしいんですよ。変な言い方ですけど、こういうなんの変哲もないサンドイッチはパンのおにぎりだなって思います」
卵を焼く前にパンの準備を整えておくこと。猫式海苔たまサンド
昼間出かけるときには、作り置きの惣菜などを駆使して、お弁当(その場合、主食はお米)を作ることも多い猫沢さん。けれど、どうにも忙しいときには、この海苔たまサンドをオーブンペーパーで包んで持っていくこともあるそうで、おにぎり感覚というのも納得の、気取りのなさ。繰り返し作っているというのもよくわかる。
※後編では、さらに猫沢さんおすすめのおいしいパンをご紹介します。
猫沢エミ(ねこざわ・えみ)●1970年生まれ。フランス語講座『にゃんフラ』を主宰、2匹の猫、ピガピンジェリ(兄)とユピテル(弟)と暮らす。著書に『東京下町時間』『フランスの更紗手帖』ほか。4月13日には東京・ティアラこうとうにてEmi Necozawa&Sphinxのライブを行う。
『クロワッサン』971号より
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