水丸ワールドに吹く風は なんて心地いいんだ!│『イラストレーター 安西水丸』展 │金井真紀「きょろきょろMUSEUM」
ワタクシゴトだが、名刺に「イラストレーター」という肩書きをおずおずと追加したのは、わずか数年前。「あれ? あんた絵なんて描いてたっけ?」と旧友たちは驚いている。「えへへ、40の手習いで」と説明する声が、つい小さくなる。思いついて絵の具を買ってきて、「うひょひょー」と描いているうちに仕事になってしまった。うれしい展開だけれど、画法も画材もてんで知らない。
無知無学を引け目に感じて、つい小声になってしまう。ま、肩書きなんて名乗ったもん勝ちなんだけど。
そんなわたしにとって、安西水丸展は刺激に満ちていた。水丸さんが手がけたあらゆるジャンルの仕事が一堂に会していて、見ても見ても見飽きない。原っぱで野球をしている少年がニューヨークのヤンキースタジアムへ行ったかのような興奮状態で、美術館の中を回遊した。はぁ(ため息)、これがホンモノのイラストレーターの仕事かぁ!
原画は意外に小さい。色付けの微妙なはみ出しが味。影の付け方がかっこいい。なんて細かいことにいちいち感激したのだが、何よりも印象に残ったのは「気楽に描くほうが自分らしい絵になる」ということば。そう、いいなぁと思うイラストレーションには必ず「気楽さ」が漂っている! 水丸さんは、せっせと絵を描くことで世の中に気楽な風を送り続けた人なんだなぁ。
人生後半にのっそりと始めた我がイラストレーター稼業。描ける絵は限られているし、上達の気配もない。せめては気楽に、描くぞ描くぞ。
金井真紀(かない・まき)●作家、イラストレーター。最新刊『サッカーことばランド』(ころから)が発売中。
『クロワッサン』979号より
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