くらし

物事の感じ方が変わった! 小説講座を体験。

  • 撮影・岩本慶三 文・後藤真子

受講生の作品への講評を通して、「小説の方程式」を伝授する。

教室風景。120名が在籍しており、すでに作家デビューした人もいる。

講座の内容は、受講生の提出作品に山口さんがあらかじめ目を通し、講評を述べていくスタイル。3時間(10分間の休憩を1回挟む)で10編の作品を取り上げる。作品は冊子にまとめられており、見学者は当日受付で1冊借りて、帰りに返すシステムだ。
その日講評を受ける人は最前列と2列目に座り、他の受講生の席は自由。17時半の開始時にはざっと30名が集まった。男女比は半々くらい。革ジャン姿の若い人もいれば、背広姿の男性も。中高年の女性も多い。私のほかに2名の見学者がいた。

講評が始まると、空気がピリッと引き締まり、みな真剣にメモを取る。
山口さんの講評は、まず作品の全体像を解説し(時代設定や、どういった構造で書かれているか等)、その後で、頭から筋を追って物語を読解しながら、改善の方向性を導き出していくもの。誤解されやすいが、添削ではない。

「時代考証に引きずられず、それを小道具として使えるようになるとよい」
「小説は物語を書くものじゃない。人を書け。すると物語は生まれてくる」
「試しにこういう視点を盛り込んでプロットを再構成してみると、次の作品を書く時の力になるだろう」
「伏線や仕掛けは、忘れた頃にポンと出てくるようにする。そこは作品をうねらせるチャンスです」

1作品につき約15分、内容は濃密で、まさしく小説の方程式と言うべきもの。他の人への指摘も「なるほど」と思わされ、ためになる。ユーモアもあるので、度々、笑いも起こる。
時代もの、現代もの、海外が舞台のもの、社会派、SF、青春スポーツものなど幅広いエンターテインメント小説が勢ぞろい。途中から駆けつける人もいて、気づくと40名以上に増えていた。わずかな時間でも、講評を聞きたいという熱意が伝わってくる。

3時間が短く感じ、終始わくわく、とても楽しいひとときだった。日常でこんなにみっちり小説の話に向き合える機会は、めったにない。
受講生2人に話を聞いた。50代から小説を書き始めた石倉淳子さんは、「プロット研究会などのイベントがあるのも、ここの魅力です」と語る。2001年から在籍している大和香要子さんは、「小説を書くことはやめられません」と話す。私にも、「書くことをやめたら自分ではなくなってしまう」という感覚がある。共感できる人たちに会えるのは、やはり、励みになる。

右が編集者、 小説講座主任講師 山口十八良さん。私が小説で取り組んでいるのは、現代の日本のキリスト教文学。ぶれずに書き続けようと思った。

山村教室では、受講生同士の作品評を禁止している。後日、山口さんに理由を尋ねた。
「受講生同士では、感想になってしまいます。講評は感想ではなく批評。いい点をもっと良くし、悪い点をどう変えたらいいか、道筋を示すものです」
それは、次作の執筆に向けてのエールでもある。私は小説誌の校閲の仕事もしているが、文章についての細かい指摘は校閲がする。編集者は、もっと大きな視野から書き手を励まし、示唆を与える役割なのだろう。

山口さんの厚意で、私の作品にも講評を賜った。聖書をベースにした30枚程度の短編で、原稿には山口さんの直筆で「新しい視点」「ここがテーマか」など、丁寧に読んだ過程のメモが記されていた。今後のヒントとして、核の危機を描いた昔の映画『未知への飛行』の話も聞けて、参考になった。

これから小説を書きたいという本誌読者へ、アドバイスをいただいた。
「誰にでも、自分だけが持っている話があります。小説を書くと思ってかたくならず、しゃべるようにしてそれを書いてみてください。作文は年齢に関係なく、小学生からたとえば90代になってもできるものです。自己表現することで、自分の中にたまっていたものが破裂してくれると、生き方やものの見方が変わってきます。忙しくても、合間を縫って1日400字書けば、1カ月で30枚です。どこかの賞に応募して、入選して小遣いが入りでもしたら、やみつきになりますよ」

まずは、書く。見本がほしければ、世にある数多の小説を読もう。

山村正夫記念小説講座
見学無料(1人1回)
【受講料】1期3カ月で2万7000円、1年を4期に分けて進行。初入会者は2期分で割引あり。
【会場】東京都渋谷区道玄坂2-10-7 新大宗ビル フォーラムエイト内 山村教室
【開催】指定土曜日(月2回ほど)17時30分〜20時30分
【問合せ】TEL:03-6850-5411(平日9時〜18時)
【URL】http://cybernovels.jp/
見学の申し込みは上記サイトの応募フォームより。

山口十八良(やまぐち・とうはちろう)●編集者、小説講座主任講師。週刊誌等の編集や記者経験を経て角川書店に入社、小説誌『野性時代』の編集長を務めた。担当した作家に山村正夫氏、赤川次郎氏、森村誠一氏ほか。

『クロワッサン』975号より

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