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笑って、許して、騙されながら、男は思い出を買い続けます――藤村俊二(俳優)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、粋なあの人の言葉を味わいます。

文・澁川祐子

1977年7月号「男の買物」より
1977年7月号「男の買物」より

笑って、許して、騙されながら、男は思い出を買い続けます――藤村俊二(俳優)

創刊号からスタートした「男の買物」。各界の著名男性が、買いものにまつわるエピソードを披露するエッセイです。3回目に登場したのは、おヒョイさんの愛称で親しまれ、昨年惜しまれながら亡くなった藤村俊二さん(1934-2017)。

<日本はホントになんでもある国で、お金さえあれば、なんでも売ってくれます。でも、思い出は売ってくれません>

そう語る藤村さんが取りあげるのは、エジプトを旅したときに買った香水の素。クレオパトラをあしらった瓶が、いかにもエジプトみやげといった風情です。

道端には、観光客の気を引こうとあれやこれやとセールストークをするみやげもの売り。彼らが売っているのは、博物館にしかないはずの「謎のスカラベ」や、かみさんのぼろスカートを引きちぎったらしき「世界最古の布」などなど……。

そんな雑踏のなかでみつけたのが、この香水の素が入っているという瓶です。売り文句によれば、アルコールで9倍に薄めると、贅を尽くした名香「ジャン・パトゥ」ができあがるのだとか。そんな愉快で壮大なホラは、藤村さんにしてみれば<ザッツ・インチキテイメント>。かくしてはるばるエジプトから運ばれてきた香水は、使われずにただ部屋にただ置いてあるといいます。

旅の思い出が詰まった香水瓶。締めくくりの一文は、ダンディーと評判だった藤村さんらしい、大人の余裕を感じさせる買い物哲学です。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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