さらに、森悟の痛みを探る「診察」と称したセックスなど性愛の描写も、天童さんにとっての挑戦だった。過激な内容も上品な文章で紡ぎ、読者の想像力を刺激して深い世界へ誘う。
「それぞれ身体と心に痛みを感じない男女の性愛は、これまでにないエロティシズムの表現になる予感があった。皮膚感覚に敏感であること、そして行為の有無やその快感という“結果”よりも、人と触れ合うことによる恐れや痛み、そこから生じる喜びという“プロセス”を重視して描きました」
脳科学や痛みの緩和ケアなどの緻密な描写からは、医療分野における膨大な取材が推察される。