『ののはな通信』著者、三浦しをんさんインタビュー。「手紙って、もらった人しか読めないもの。」
撮影・土佐麻里子
昭和も終わりに近いころ、横浜の名門女子高校で出会ったののとはな。この二人が親友に対する以上の気持ちを宿しながらやりとりした文章のみでつづられている本作は、三浦しをんさんの約3年ぶりの長編。素晴らしい恋愛小説であり、成長物語だ。
「人の心をいつまでも支えて、柔らかく広げていったりするものって何なのかなあ、と考えたんです。ののとはなにとって、それは自分にとって大事な人と出会えた経験」
高校生の二人が初めて得た、かけがえのない恋愛だったわけだが、
「それだけでは終わってほしくなくて、この子たちをもっといろんな渦の中に巻き込もう、と腹黒く企んでいました(笑)」
実際、固く結ばれていたはずの二人の仲は、ある事件を機に、急速にほころび始める。
「恋をしたときの喜びや戸惑い、すれ違い……そういうものを経て、自分とは異質な他者とぶつかったり、理解しようと努めたからこそ、その後の人生においても彼女たちはそれぞれ周りの人と向き合っていけるし、自分の考えや世界をどんどん柔軟に変えていけるんです」
もちろん、すべての人に劇的な恋が訪れるわけではないだろう。
「なにも恋愛じゃなくても、のめり込める趣味でもなんでもいい。自分にとって大切なものが記憶の中にあるかどうかが、大事なことであり、希望なのかもしれません」
ところで、この作品の特徴は、書簡体小説であるということ。20年にわたり、断続的にやりとりされる文章は、その時々の年齢にふさわしい成長を見せる。
「この二人、よく考えるし、よく書く人たちなんです(笑)。手紙って、投げかけるように、伝わるように書くもの。親しい相手には割と赤裸々だったりもしますしね。それが日記とはまた違う手紙の面白さで、一人称の小説より、もっと登場人物の内面に入りこんでいく気がしました。手紙ならではの熱狂と変な間合いもあって」
校内で渡すメモや郵送される手紙、現代に近づけばメール……。
「ずっと手紙ばかりだから、読みにくくないといいんですが」
という三浦さんだが、読みにくいどころか! 誰かを大事に思うときの、切実だけれども、次の瞬間には消えてなくなってしまうような曖昧な感情を、二人の女性の等身大の言葉で詳しく書き留めてくれたことに感謝を捧げたい。読み手の遠い記憶の中に埋もれていたみずみずしい感情がそこかしこで、そっと息を吹き返すはずだから。
KADOKAWA 1,600円
『クロワッサン』976号より
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