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【紫原明子のお悩み相談】夫が貯金をしてくれません。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。あなたもお悩みを投稿してみませんか?

<お悩み>

共働きで働く30代の夫のことで悩んでいます。
お互い給与も同じくらいなので、家賃や食費などの生活費分だけ出し合って、残りは各自で自由に使うようにして結婚後5年が経ったのですが、最近になって夫が生活費以外の収入のほぼすべてを使ってしまっており、貯金ゼロということがわかりました。
私は堅実なタイプでコツコツ貯めていたので、貯金額において夫との格差が相当広がっています。
今後家を買ったり、子どもが生まれたりしたら私の貯金からお金を出さざるを得ないのが明白なので、今後は夫から生活費だけでなく、貯金用のお金も出してもらって私が貯金するよう提案したのですが、「自分の稼いだお金を自由に使えないと思ったら気分が沈んで鬱っぽい……」と暗い顔で言われてしまいました。
夫が病んでしまうくらいなら、私は諦めて自分だけ貯金するしかないのでしょうか。
(相談者:まめぞう /30代、会社員)

紫原明子さんの回答

まめぞうさんこんにちは。旦那さん、なかなかずるい言い方しますねえ。

ひとつ気になったのですが、旦那さんはまめぞうさんと同じように、家や子どもを欲しいと思っているのでしょうか。もし旦那さんのほうが、実はそれらに対して、本音では割と消極的、子どもも家も、そんなに必要ないと思っているとすれば、それはそれでまだいいと思いました。自分は自分の稼いだお金を自由に使わないと気分が沈むから、子どもも家も検討していない、と。それならそれで理屈が通じる相手って感じがしますし、必要なのは今後の家族観のすり合わせですよね。

一方で、家や子どもを旦那さんが無邪気に望んでいるような場合には、ちょっと厄介だなと思いました。欲しいものはあるけど自分のリソースはさけない、さきたくないのではなく、そうしようとすると気分が沈んで鬱になりそうになる、と。こんな風に不可抗力な言い方をされると、この理屈で生じる矛盾を埋めるのはすべてまめぞうさんの役割になってしまいますね。

仮にもしこの先、子どもが生まれたら生まれたで「自分の時間を自由に使えないと気分が沈む……」と旦那さんがどこかで聞いたようなことを言い出し、やはりまめぞうさんが「病んでしまうくらいなら諦めて私がやるしか」とすべての育児を担うようになる未来も、チラチラ見え隠れしているような気がしてしまいます。

時間とかお金とか労力とか、自分の資産を自分のためだけに使い続けたいと思う人は、そもそも誰かとパートナーシップを組んで生きることそのものに不向きなような気がしますが、それでも尚この人と家庭を築いていきたいとまめぞうさんが思うのであれば、長期戦を覚悟すること、煮え切らないものを煮え切らないまま抱え続けていく覚悟を持つことが必要になるのではないかと感じます。というのも、お互いが一瞬にしてスッキリできるような結論はおそらく現時点では出ません。だからといって、ここでまめぞうさんが諦めて貯金を一手に引き受ける、という形を作ってしまうとそこから先、変化の余地がなくなってしまいます。ですから当面は、現時点で取り得る折衷案でだましだましやっていく。旦那さんが、渋々納得して出してくれる額からでも夫婦の貯金を始めて、何はともあれ“貯金は夫婦でする”という既成事実を作っておきます。その上で、折を見て金額を上げていくんです。

親でも妻でも夫でも、他者の言葉だけで大人が考えを変えることって、実際のところなかなか難しいように思います。なぜなら、言葉を受け止める方というのは、どんなにあなたのためと言われたところで、自分を変えようとする人間の都合をただ押し付けられているだけとしか受け止めないからです。ところが長期戦で挑んでいると、たまに、“あなた”でも“私”でもない外部から、しかるべきタイミングが降ってくることがあります。仕事とか、友達関係とか、さまざまなことをきっかけに、旦那さんのほうが自分のやり方にふと疑問を持ったり、あるいは、まめぞうさんの言葉がより説得力を帯びるタイミングが訪れます。その瞬間を見逃さず、ここぞというところでドラスティックに事態を動かす。私だったらそうするような気がしますし、それができるのが家族の良さであるとも思います。何しろ弱いつながりならば、受け入れられない要素を兼ね備えた人と長期的に付き合い続けようとは、よほどの物好きでなければ思えないからです。

とはいえ、機が熟すのを待っている間にも時は流れ、生活は続きますので、おっしゃっているように、まめぞうさんはまめぞうさんで貯金をされたら良いと思います。……が、その際の貯金というのはくれぐれも旦那さんの知らないまめぞうさんの口座で、旦那さんには見えないようにやられることをお勧めします。やはり知っていると、旦那さんがそのお金をあてにして、ますます経済面での主体性を欠いてしまうかもしれませんし、また何よりもし今後、経済観のギャップが埋まるどころか拡大していって、一緒にやっていくのはいよいよ無理そうだということになったとき、新しい生活を始めるにあたってはどうしたって先立つものが必要です。家族なんだから多少の弱さはカバーし合って生きたらいいと思いますが、相手の弱さや甘えを許容していると、ときにどんどん増幅していってしまう場合があります。そういうとき、いつでも離婚できる体制を整えておく、いつでも離婚できるんだぞという心持ちでいるというのは、その抑止力として有効ではないでしょうか。ぜひともバレないように、貯めましょう!

イラスト:クロワッサン編集部・どーなつ
イラスト:クロワッサン編集部・どーなつ

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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