くらし

自分の道を行くヒロインが 山本富士子その人と重なる傑作。│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『夜の河』。1956年公開の大映作品。DVDあり(販売元・角川書店)

第1回ミス日本に輝き、美人の代名詞となった山本富士子。風格のある和風美女はスクリーン映えすると、映画会社は争奪戦を繰り広げました。当時の映画界は五社協定が結ばれ、俳優や監督は基本的に会社の専属。1953年(昭和28年)に大映と契約し、デビューのわずか3年後に主演し大ヒットしたのが、この『夜の河』です。

舞台は京都。山本富士子演じる舟木きわは、もうすぐ30歳になろうかという年頃。見合い話はすべて断り、老齢の父に代わって家業の染物屋を切り盛りしています。戦後に洋装が広まったことで、この時代、和装は衰退ムードが濃厚。きわはろうけつ染めの職人として仕事しながら販路の拡大に積極的で、近江屋(小沢栄太郎)に東京進出を世話してもらいます。仕事は順調。そんなとき、妻子ある大学教授、竹村(上原謙)と知り合い、次第に惹かれ合うように。恋によっていっそう輝きを増すきわですが、彼の妻が病気であることを知り、大変なショックを受けます。ほどなくその妻が亡くなり……。

今作が凡百の不倫ものと一線を画しているのは、やはりきわの人物造形にあります。女でありながら家業を支える重圧をまるで感じさせず、溌剌と好きな仕事に打ち込んでいるきわの働きぶりは、見ていてとても気持ちがいい。商売上手でするすると東京進出を成功させるも、近江屋の誘いを断ったことでひどい意趣返しをされるといった、女性が働くことの困難さも描かれます。同時にこの場面は、五社協定によって映画界から追放された山本富士子その人の苦難も、重なって見えるよう。そしてきわがラストにくだす決断もまた、毅然としてフリーの道を選び、ドラマや演劇の世界で活躍をつづけた女優山本富士子のそれと、重なって映るのです。

丹念な京都ロケも素晴らしい本作。鈍色の瓦屋根が連なり、市電の走っていた京都を堪能しつつ、強く気高い京女の生き様にしびれること必至です!

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。映画化した『ここは退屈迎えに来て』が今秋公開。新刊は『選んだ孤独はよい孤独』。

『クロワッサン』974号より

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