たとえば、戦後の教育制度の改革で学歴がないことになってしまった父親は、息子の大学進学を切望するし、苦労せず育った息子はフリーターでもいいじゃないか、と考える。あるいはそこから時代が下がり、仕事と育児に頑張りすぎる母親は夫とかみ合わず、その息子は幼くして諦念を抱えている。
「因果関係というのはありますね。それはもうずっと考えています。そして、親はみんな自分のスケールで子どものことを考えようとするんだけど、時代がどんどん変わるから合わなくなる。すると、自由にしなさい、という放棄が生まれるだけなんですね」
6人の主人公のうち、22歳と12歳の若い2人の名前は凪生に凡生。
「あからさまに似た名でしょう? 何もない凪と平凡の凡。この辺になると時代がどうもへったくれもなくて、全く違う基準で生きている。22歳の大学生は上の世代の主人公と違って特に大きな悩みもない前向きな人にしたんです。そこから彼の世代の空洞みたいなものが伝わるかな、と」
若い人のことはわからないと言う橋本さんだがこんな示唆を。
「今の人は他人に届く声の出し方がわからないんだと思う。みんなが同じようなことを言っていることを理解していないし、“自分は言っている”だけで、それが他人に届いているかどうかを考えない」