若尾文子が女の自我に目覚める芸者をコケティッシュに演じる。│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」
中学のころからレンタルビデオ屋にせっせと通い詰めた映画好きですが、もっぱら洋画専門。日本映画は暗くて湿っぽくて冗長……そんなイメージのせいで敬遠していたけれど、1本の作品によって覆されました。若尾文子主演『青空娘』は、和製シンデレラといったキュートな物語をテンポよくスカッと描いた、実に気持ちのいい快作!そうして一気に、黄金期と謳われた時代の日本映画と、麗しくて着物の似合う、昭和の銀幕女優の魅力に開眼したのでした。
毎号、素敵な女優さんと名画をご紹介させていただくのですが、1回目はやはり、わたしが恋した大映の看板女優、若尾文子さんの作品から。1961年(昭和36年)に公開された『女は二度生まれる』は、靖国神社のほど近くにあった花街の芸者小えんの物語。
芸者といっても小えんは、舞や唄や三味線といった芸を身につけているわけではなく、酒の席で愛想をふりまくのが仕事。それどころか赤線が廃止されたご時世、小えんは置屋から斡旋があれば、あっけらかんと客と寝る女なのです。時代の流れに乗ってバーの女給に転職してみたり、お誘いがあれば二号さんとして既婚男性に囲われる。食べていくため、客である男に甲斐甲斐しく尽くす小えんは「可愛い女」です。それで万事うまくいっていたのも束の間、愛人の死であっさり後ろ盾をなくし、元の芸者稼業に戻ることに。愛人の妻になじられ、密かに好きだった男は他の女と結婚し、小えんは否応なしに、女として生きることの危うさに目覚めていくのです。
当時28歳の若尾文子のコケティッシュな色気がたっぷり詰まって、着物姿を堪能しているうちにストーリーがどんどん展開していきます。可愛い女としてゆらゆら楽しく生きる小えんを、女の自我をめぐる問題に直面させ、そこに『女は二度生まれる』という題をつけた名匠川島雄三のキレのある演出が素晴らしい。女いかに生くべきかを軽やかに描いた、女性にこそ観てもらいたい1作です!
山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。映画化した『ここは退屈迎えに来て』が今秋公開。5月に新刊『選んだ孤独はよい孤独』。
『クロワッサン』973号より