それはネット社会の弊害でもある。いまは匿名の下に言いたいことを言える世の中だし、肯定するよりも批判するほうがかっこいいという誤解もある、と村山さん。しかし、
「本当に追い詰められたら人は普通の判断ができなくなるんです。真面目な人ほど割を食うことを他人事ではなく、どうしたら多くの人に受け止めてもらえるか考えながら書きました」
この小説は、上毛新聞をはじめ、13紙に連載されていた新聞小説が元になっている。連載を始めるにあたって、あらすじを知っている読者からは「どうか健介を死なせないでほしい」という声がいくつも寄せられた。疲れ切った健介が死を選ぶ直前に買っていたのは、目覚まし時計とコンビニで温めてもらった海苔弁当。明日も生きようとしていた証しなのに、それをふっとまたぎ越えてしまう瞬間の恐ろしさ。
「本当は親を残しては死ねないし、恋人を残して死ねないはずです。でもブラック企業関連の資料を読むと経営者が鬼のような企業理念を社員に押し付けていたりする。それがやる気のある若者を追いつめ、潰してしまう」